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「……刹那君、だったか?ここら辺に眼科は?」
「残念ながら無い。というか、この町には医者はいない」
「そうか……この医者には町がいないのか……」
「兄貴……気持ちは分かるけど、動揺しすぎだろ…」
……確かに、ミハエルの言うとおりだ。気持ちを静めて、冷静に。いつものように戻らなければ。これではキャラ崩れが起こる。というか、すでに起こっているような気がしなくも無い。
とりあえず目を覚ますために、外から刺激を得ることにする。これが一番手っ取り早く、確実な方法だろう。
「ネーナ、私を燃やしてくれないか?」
「ダメだよヨハン兄っ!それ、目が覚める前にまた眠っちゃうからっ!」
「では、ミハエル……」
「ナイフもダメだぜ、兄貴……ってか、本当、本当に死んじまうって!」
「そうか……?………そうだな…」
ようやく落ち着いてきて、混乱の原因を見る。
そう……自分を殺しに来たのではなく、呼びに来たという『狩人』の姿を。
ハッキリ言うと、この現象は有り得ない。百点満点のテストで二百点をとるくらい有り得ない。昼間に月が昇って夜中に太陽が現れるくらい有り得ない。あとそれから、ミハエルがネーナを嫌いになるくらい有り得ない。
彼は家族が『異端』の手にかかってしまった復讐者であり、決してそんな……呼びに来る、という普通なことで『異端』と関わろうとする人間ではない。ここで銃を構えてくれた方が、まだ気が楽というか……。
だが、まぁ、呼びに来てくれたのは事実なので、食堂には行った方がいいのだろう。どれだけ混乱していても。
「朝食……だったな。すぐ行こう」
「そうしてくれ。ティエリア・アーデは我慢強い方ではない」
刹那はそう言って、クルリと踵を返した。用件は済んだと言うことだろう。
彼の後ろを点いていく弟妹たちを追おうとして、扉の所にロックオンが立っていることに気づく。
思わず立ち止まり、彼の方を見ると、ロックオンは口を開いた。
「ヨハン・トリニティ」
「……何ですか?」
「いつか、決着はつけるからな」
その言葉に、薄く笑う。
あのロックオンが『今』ではなく『いつか』と言った。それはつまり、復讐しか考えていなかった彼の心に、幾ばくかの余裕が出来たということ。
理由は分からないが、どうやら彼は良い方に変わったらしい。