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「……ここらに来るのは、久しぶりだな」
森の中、多くの部下に囲まれながら、アリーはポツリと呟いた。
本当に懐かしい。ここに最後に来たのは、ざっと五年くらい前か。あの時は『商品』を運んでいたのだった。今の傭兵事業ではなく、運び屋のような仕事で。
その『商品』のことを思い出し、顔をしかめる。
金になりそうな『商品』だったのに……逃がしてしまうなど、なんと愚かなことをしてしまったのだろう。檻に入れ、鎖に繋いで、薬を投与していたとはいえ、監視を一人、二人程度しかおいていなかったのは、自分のミスだったのだろう。
酒をあおりながら、そういえば……と思い返す。
鉄製の『商品』を入れていた檻は、通常ではありえないほどに捻れて、歪んで、潰れて、切れて、叩きつぶされて……見るも無惨な姿だった。
明らかに、人間に出来ることではない。
誰の仕業かは判明していない。だが『異端』の手による物だと、推測が可能だ。とても強い、破壊の力を持つ『異端』の。
今なら、壊していった存在がどういうモノだったか、大方の見当はつけることができる。
なぜなら知っているからだ。今目指している町には『魔王』と呼ばれる存在がいるということを。
『異端』の中でもさらに異質な存在、魔族。度々、人間から生まれてくる人の亜種とも言える彼ら。純血の者もいるだろうが……人からヒトへと変わり、魔族となってしまった者は、果たしてどのような気分なのだろうか?
そんな彼らの王。それが、どのように現れるのかは分からない。魔族の血を引く者の中から現れるのか、あるいは人間の中から生まれてくるのか。それとも……『異端』がそれに変貌してしまうのか。
分からないが、『魔王』がどんな『異端』よりも強大な力を保持していると言うこと。ただ、それだけは知っている。
考えれば考えるほど、ゾクゾクとしてくる。
……どうして、楽しみだと思わずにいられるだろうか?
強い相手と戦い、殺す瞬間のことを……。
あぁ、別に殺す必要はないのだ。そういう報告を上にはしておいて、生かして捕らえるという手もある。飼い殺し、というのも楽しいかもしれない。
都に、ひいてはそこに住む貴族に命じられた、都の『狩人』の部隊。彼らは真面目に、実に勿体ないことに、楽しむこともなく『魔王』を亡き者にしようと考えている。
まぁ、自分は依頼を楽しませてもらうが。
そう……『魔王』を、ついでに町の『異端』たちを残らず狩るという、その依頼を。