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実はトリニティ三兄弟の内、末っ子と次男は屋敷にはいなかった。
ネーナの方は『捜し物』、ミハエルの方は『暇だから』という理由で、町に出て行ってしまったのである。ちなみに目的はバラバラだから、珍しく二人は別行動を取っているハズだ。ネーナはともかくとして、ミハエルが良くもまぁ了承したものだ。
自分で淹れたコーヒーを一口飲む。
豆が良いのだろうか……今まで飲んだものの中でも五本指には間違いなく入る味だ。苦いと言わずに、一度弟妹たちも飲んでみればいいと思う……というか、苦いならミルクとか何とか、入れてしまえばいいと考えるのは果たしてヨハンだけだろうか?
そこら辺は、自分の力ではどうしようもない、彼らの気持ちの問題なので放っておく。
考えるべき事柄は、別にあるのだから。
別に、ロックオンという『狩人』の存在を気にしているわけではない。朝のあの様子を見る限りでは、今のところ問題は無さそうだった。こういうときは放っておくべきだろう。ヘタに刺激を与えるとそれこそ危険。
引っかかっていたのは、この屋敷の雰囲気そのもの。
妙、なのだ。
どこがと訊かれると答えようがない。
だけれど、確かにこの屋敷は妙なのだ。
一番最初に違和感を覚えたのは庭の様子。四季を無視して、花たちが咲き誇っているのを見てしまったとき。見えにくい場所にあったが、それでもヨハンは気づいた。
弟妹たちは気づいていないようだったが……そこはまぁ、深く突っ込んではいけない。ヒトには得手不得手があるということだ。
次に感じたのは、部屋の中に入ったとき。とても綺麗な状態で、窓枠にもホコリは積もっていない。実に掃除が行き届いていると言えるだろう。
だが、そうだとしたら「誰も使っていないし入ってもいないから、状態は良いはずだ」という、ここへ三人を連れてきた直後のティエリアのセリフに疑問が生じる。
彼は『誰も使っていない』と言うだけでなく『入ってもいない』と口にしたのだから。
使っていない、というのはいい。この屋敷の住人の個室は別にあるということだろうし、旅人もそんなにこないということだろう。
しかし、入っていないというのは、どうだろう。掃除をする時には否応なしに、部屋に入ってしまうものだろうに。彼だけが入っていないというなら分からなくもないが、言葉の始めに『誰も』と言っているのだから、それは考えにくい。
ドアだけ開いて覗いた、というのも考えにくい。ドアノブにはホコリが積もっていた。
これらの事柄から、本当に入っていないとする。
……だとしたら、どうして『状態は良い』と分かる?
時間の流れが他とは違う場所があるのは知っている。原因は土地そのものであったり、不思議な道具であったりと様々だが。
この屋敷も、そういう場所なのかも知れない。そう仮定すれば四季を無視した花壇の花たちのことは説明が付く。
だからといって、それでも『状態は良い』とは言い切ることは出来ない。時間が止まっているとも限らず、遅く流れているとも限らない。速まっていることだってある。こういう流れは、ちょっとしたことで変わるのでパターンは読みにくい。安定もない。
彼の物言いでは、ここがその状態であることを確信しているようだった。それはまず、時間がどのように流れているかを理解していなければならない。
一体、どうやって知り得たのだろう。
もしかしたら、あるいは……
考えて、ヨハンは首を振った。
有り得ない話だ。こんな自然現象のようなものを。
まさか、コントロールする力を持つ者がいるかもしれない、など。
できるとしたら、そんなのは神に等しい力を持つ者だけだ。