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「お久しぶりです、アリー・アル・サーシェス……といっても貴方は僕のこと、覚えてさえ居ないでしょうけれど。実は会っているかどうかさえ、少し怪しいですけど」
足音に気づいて顔を向けてみれば。
そこには黒いボロボロのロングコートを身に纏った、黒い長髪の青年が立っていた。
紅い瞳はまっすぐこちらを見据えており、放たれているのは敵意。お世辞にも友好的な態度とは言えない。
気配を気づかせなかったその青年に、警戒心を抱く。
「…誰だ?」
「誰でも良いでしょう?それよりも……貴方が以前ここに来たときのこと、思い出せます?あの時は貴方、運び屋みたいなことをしていましたけれど……傭兵に転職ですか?」
彼の言葉に、ピンと来る物があった。
さっきまでずっと、そのことを思い出していたのだ。話は簡単に繋がった。そうでなくてもあの話は鮮明に記憶しているから、言われたらすぐに分かったろうが。
……なるほど、彼はあの時の関係者か。
「ってことは何だ?お前がアレを逃がしたのか」
「やったの、僕だけじゃないですけど……いけませんでした?」
「あぁ、いけないね。折角、金になる『商品』だったのによ」
すでに買い取り手も決まっていた『商品』だったのに。しかも、かなりの高額だった。それこそ一生遊んで暮らせるような……とは言わないが、少なくても一年は仕事をしなくても困らない額。
あんな『商品』一つによくもまぁ……と思いはしたが、利用価値の高い『商品』だったから、妥当な額だったのだろうと最近は考えるようになった。
つまり、それだけの値打ち物だったわけだ。
「貴方は怪物ですね……平気でそんなことを言えるんですから」
「悪いな。俺は昔からこうなんだよ」
「何となくですけど、分かってます。だから…」
唐突に現れた彼の傍らの小さな細い裂け目のような物。
そこから現れた柄を握り、青年はこちらに向かって地を蹴った。
「だから、貴方たちを追い返しに来ました」
「へぇ…わざわざか?嬉しいねぇ、相手に来てくれるなんてよっ!」
自分めがけて振り下ろされた、裂け目から完全に刀身を表した大剣。それを鞘から得物をを抜き出して受け止める。
ガキィ、という鈍い音に、重い衝撃。
…これは、直撃したら一発で天国、かもしれない。
まぁ、くらう気は無いが。
そんなとりとめのない思考よりも、まずは彼だ。
この一撃だけでは何とも言えないが、自分に気配を気取られない技術も考慮に入れると、相当腕はたつに違いない。そして、先ほどの裂け目のような物が現れたことから考えて…なるほど、恐らく青年は『異端』なのだろう。
なんと嬉しいことだろうか。強い敵がわざわざ、自分と戦いに来るなど。
戦うことこそ生き甲斐の自らにとって、それは何よりも喜ばしいことだし、感謝するべき事だ。なぜなら、それは、相手を屈服させ、殺すときのあの快楽を与えてくれる存在だから。
などと思っていると、青年口を開いた。
酷く、言いにくそうに。
「あの……今更っぽいですが…戦う前に、あそこの木に、どうして人が逆さに吊されてるか…教えてくれませんか?近くにいる人が凄い笑顔な理由も、できれば……」
「気になるのも、仕方ないとは思うが…気にしたら終わりだろ」
「…分かりました」
その言葉と共に、二人は間合いを取った。