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地下にいたティエリアは空気が僅かに変化したのを感じ、ついと視線を上に向けた。
ほんの少し、屋敷の中を満たすモノの均衡が崩れているようだ。ヴェーダの持つ『聖』とでも呼べそうな力と、彼の持つ『魔』の力との。
恐らく、彼は町の外へと出て、その上この町全体を幕か何か……とにかく、物質投下などを防ぐ物で覆ってしまったのだろう。
守る、ために。
彼の心情が容易に想像できてしまい、はぁ、とティエリアはため息を吐いた。
いつもは大人しく見えるが、場合によっては誰よりも勝手に動く。しかも自分のことを顧みることがほとんど無いから、危なっかしくて目を離すことが出来ないというのに、いつの間にか目の前から消えているという。
そんな彼を止めることなど、できはしないと分かってはいたが、できることなら一人で突っ走るようなことをせずに相談でもして欲しかった。ティエリアは人間ではあるが、そのくらいなら力になれる。
なのに、一人で向かっていくのだ。彼は。
今、町を覆う物。それは外からの敵を防ぐだけの物ではなく、中から人ビトを危険な場所へと出すまいという彼の一種の意思表明でもある。つまるところ、彼は一人で戦うと決めているのだ。
「全く……俺たちのことも考えて欲しいものだな……」
ため息を吐いて、ティエリアは鏡を一撫ででした。
瞬間、鏡はひときわ明るい光を放って、再び暗くなった。
これは、能力のロックが完了したという合図。普段は、誰もこんな場所に来ないからやってはいないが、できなくはないのだ。ティエリアが発見した。
ロックの確認をし、ティエリアは地下から出ようと踵を返す。
向かうのは町の外。
彼がいる場所。
……なのだがしかし、やはり一人で赴くというのも問題だろう。やはりティエリアは人間であり、戦いという物は不得意だ。多分。
考えて結局、屋敷に残っているヨハンを連れて行くことにする。ネーナとミハエルの行き先はヴェーダですでに把握済みだから、いないと知っているから考えの対象外。もちろん、ハレルヤたちも。そこら辺に手抜かりはない。
が……未だに気絶しているであろうヨハンを起こして、その後なんと話せばいいのかが浮かばない。まさか、正直に全てを言ってしまうわけにもいくまいし。ソーマの金槌の力で、記憶が飛んでいるのが最もベストな状態だろうが……果たして、そこまで上手くいくかどうか。
扉を開きながら、ハレルヤが言っていた逃亡者たちをどうするべきかと悩む。帰してやれれば良かったのだが、今は力が遮断されるから瞬間移動で帰るのは無理だろう。この状況では、力の行使はできるとしたら彼だけだ。
仕方がないから彼らに関しては放置しておくことにして、ティエリアは階段に足をかけた。