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『名前?名前はね………』

 手を引かれて走りながら、断片的に浮かんでくる過去の記憶。
 それらは……そう。曖昧になっていた『黒色』に関する記憶。

「もう少し頑張ってくれる?」
『あとちょっと、走ったら休めるよ』

 決してこちらを向こうとしない青年の言葉が、今まで忘れて……否、『封じられて』いたのであろう『黒色』との記憶と重なる。
 字面は違う。だが、中に含まれている色は全く同じだ。

 少しだけ足が重くなって、ペースを落としたら、気づくのが難しいくらいほんの僅かだが、間違いなく彼は走る速さを遅くしてくれる。

 自分を助けてくれた、手を引いて共に走ってくれた、一緒に逃げてくれた、あの『黒色』と同じように……そして、昔の状況と酷く似ている今の状況が、忘れていたはずの記憶を呼び覚ましていく。

「変なことに巻き込んじゃってゴメンね」
「……気に、していない」
「そう?」

 全速力で駆けているのに、どうしてだろうか……青年は息切れ一つせずに、普通に会話を続けている。刹那は、途切れ途切れに言葉を紡いでいるのに。

「そういえば……名前を、訊いて…いない」
「名前?」

 そう言いながら足を止めた青年のすぐ後ろで、刹那は素速く息を整えた。どうせ、彼が問いに答えたらまた走るのだ。今のうちに少しでも体力を回復しておきたい。
 くるりと顔をこちらに向けた青年は、ニコリと微笑んだ。

「名前は秘密だよ」
『名前?名前はね……』

 彼が答え、それが『黒色』が笑んで答えた場面と重なった瞬間。
 刹那の中で、曖昧だった記憶、その全てのピースが繋がった。

「……なるほどな」
「…?」

 思わず呟くと、青年は不思議そうな顔をした。突然何を言い出したのかという、そういう思いが見て取れる。
 構わずに、刹那は言葉を続けた。

「あの時の記憶……俺が自然に忘れたワケではかったんだな…」
「何を……?」
「思い出した。全て」

 まっすぐ青年を……いや、『彼』の目を見る。
 『彼』は刹那の言葉に酷く動揺している様子で、それでも話を最後まで聞こうと思っているらしい。黙って視線で促してきた。
 素直にそれに答え、刹那は口を開く。

「別にあの時声を変えていなくても、それだけなら俺の記憶を隠す必要はなかった。だが、弾みで……だろうか……あるいは、二度と会うこともないだろうと思ったのか…とにかく、お前は言ってしまったんだ、自分の名前を。俺に向かって」
「……じゃあ、名前は何か言ってみて?」

 そう言う『彼』は、もう観念しているように見えた。今の状況に納得しているようにも。いつか、この時がくることは分かっていたのかも知れない。
 思いながら刹那は瞳を閉じて、言った。



「……お前の名前は……アレルヤ。アレルヤ・ハプティズム」



『名前?名前はね……アレルヤ。アレルヤ・ハプティズムっていうんだよ』

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