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ふと気がつけば、そこは町の中ではなく深い森の中。直ぐ傍にいたはずの二人の少女の姿は影も形もない。ミハエル一人きりだ。
驚くべき状況なのだろうが……生憎、今までいた場所とは全く違うどこかにいる、というのは今日はこれで二回目の経験だ。立て続けに起きてもらっても、どう反応すればいいのか逆に迷う。
『お兄さん』
と、唐突に前方から声がした。
ついと視線をやると、そこにはあの、神殿のような場所で眠っていた子供が微笑みを浮かべて立っていた。白い服を着て、幼い身で纏うことは到底相応しいとは思えない雰囲気を持つ、あの子供が。
前回もいたわけだから、それを踏まえて考えると、この状況はあの子供が作りだした物だと言えるのだろう。
「何の用だよ、ガキ」
『ガキじゃないよ。僕は……いや、ガキでいっか』
「……?何だよ、ハッキリしろよ」
『嫌だ。貴方に僕という存在の何たるかを教える必要はないから』
微笑みを浮かべたまま、この物言い。
まるで嫌味を言われているような感覚に襲われるが、子供はおそらく、そんなことを考えてはいないのだろう。対峙しているミハエルの事さえ、気にもとめていないに違いない。そういう感じだ。
とどのつまり、子供はミハエルのことはどうでも良いと思っているのだ。子供自身のこと以外は、管轄外。思い煩うつもりもない。
「お前……ヤな性格だな」
『そう?でも貴方、僕のことを憎めないって思ってるでしょ?』
図星だった。
ぐっと詰まると、子供はクスクスと笑って口を開く。
『ま、性格は仕方ないよ。僕はそういう〈悪い部分〉の集合体とも、言えなくもないし』
「は?それってどういう意味だよ」
『どうして教えないといけないの?必要ないって言ったでしょ?』
とたんに不機嫌そうな顔になる子供。
見た目の年齢に相応の表情の移り変わりだが、相も変わらず雰囲気だけは同じ。それが子供の印象の全てを壊していると言っても過言では無さそうだ。
『それより、僕の頼みを訊いてくれる?』
「いきなり何……」
『拒否権は無い』
瞬間。
離れたところにあった子供の姿が、瞬きする間に目の前に来ていた。
「なっ……」
『体、借りるよ。返すかは知らないけど』
その言葉と共に、子供の手がどぷりと体の中に沈み、意識が暗闇に呑まれる。
完全に落ちる間際、再び微笑みを浮かべた子供の声を聞いた。
『バカだよね、あのヒト。僕がどういう性質を持っているかっていうの、一番良く知ってるハズなのに。隙さえあれば、約束待たないでやっちゃうよ。いい加減眠り続けるのは疲れたんだ。早くあのヒトには、悪夢の中に……僕の中に戻ってもらわないとおもしろくない。だから……』
……手始めに、誰か一人、あのヒトの周りの誰かを消しちゃえばいいかな?そしたら僕、起きれるかな?
そうできたら、次は邪魔なアイツとアイツを消して、それで終わりだね。