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沙慈と、それから。
dollsと微妙にリンクしております。
06.小さくなった鉛筆
全ての授業が終わった教室。
日中とは比べものにならないほど閑散としているそこで、沙慈は帰る準備をしていた。授業で分からなかった所を質問していたら、いつの間にか時間が経っていた。いつも一緒に学校を出るルイスからは先ほど、帰る、と連絡があった。あまりに長々と話していたから、彼女は待つのが退屈になってしまったようだ。後で謝っておくべきだろう。大分、待ってもらったようだから。
問題はその後の彼女の反応……そう考えながら室内から出ようとして、教卓の上に見慣れない物が置いてあるのに気付いた。
それは一本の鉛筆。
珍しい、と思う。技術が発展して、ほとんどがデータ処理になった学校で鉛筆……不釣り合いのような。あったとしてもシャーペンだとかボールペンだとか……そういうと於呂だろうに、一体どうして鉛筆なのか。
誰の物とも分からないソレを、沙慈は近付いて手に取った。
まさか放っておくワケにもいかない。忘れ物なら職員室へ届けに行くべきだろう。もしかしたら、困っている人がいるかもしれない。
それから再び教室の外へ向かおうとして、一人の女性とバッタリ出くわした。
確か……教育実習生としてやって来た人、だったハズだ。
女性は思わぬ所で人に会った、という風な表情をしていたが、沙慈の手の中にある物を目に留めて…だろうか、軽く目を開いた。
「えっと……沙慈君でしたね。その鉛筆、ここで?」
「あ、はい。そうですけど…貴方のですか?」
「えぇ。良かった……無くなったかと思っていたんですけど」
本当に良かった。
そう微笑む彼女に、沙慈は鉛筆を渡した。
「大切な物なんですか?」
「大切ですよ。これは思い出の品ですから」
「それは……」
「置いていったら危ないですね。こんなに小さな、しかも鉛筆ですから。捨てられないとも限りません」
その通りだ。例えばメモリーチップが有ったとしても、それは重要なデータが入っているかも知れないから、捨てられることは無いだろう。そんな事をして文句を言われるのは、余りにもバカバカしい。
しかし鉛筆だったら話は違う。さほど重要な物にも見えないから、案外簡単にゴミ箱行きが決定してしまうだろう。従って、沙慈がコレを見つけたのは幸運だったとも取れる。
「どうして大切なのか、訊いても良いですか?」
「構いません」
一緒に廊下を歩きながらの会話。
「私には、とても気に入ってる子がいるんです。とても優しくて、可愛らしい。けれど数年前からあの子は家出をしていて……今では音沙汰もない」
「その人から貰ったんですか?」
「そうです。だから、普通の物よりは大事ですね」
彼女がそう言い終える頃には、二人は分かれ道に差し掛かった。片方は職員室に、もう片方は玄関の方……つまりは出口に。
「では、ここでサヨウナラ、ですね」
「はい。さようなら」
「また、会えたら会いましょう」
小さく手を振って、彼女は去っていった。
それ以来、沙慈は彼女を見ていない。
実習生の彼女は、ライさんです。dollsに出てくるオリキャラさんです。
なんだかノンビリしたお話が欲しかったのです。