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「あー、アイツらを消しときゃよかったかな…んの方が、むこう行かなくていいし楽……」
「なるほど……ミハエル・トリニティに取り憑いたか…」
「ん?あ、男女?」
くるり、と振り返った彼の表情は紛うことなくミハエルの物。
しかし……雰囲気だけは決定的に違う。他の誰かでは見分けが付きにくいかも知れないソレも、長年『彼』と付き合ってきたティエリアなら分かる。
溜息を吐いて一歩、前へ進む。
……本当は屋敷から出て、そのまま森の方へと行くつもりだったのだ。だというのに行こうとしたところで、妙に町が気になった。虫の知らせ、というものだったのだろう。
仕方なく来てみれば、そこには裂け目を作ってそこへと入っていくソーマとフェルトの後ろ姿、それに一人で立っているミハエルの姿があったというワケだ。
「お前、よく気づいたな……結構コッソリ行動してたつもりだぜ?」
「どれほどの付き合いだと思っている?全く……大方、勝手に起きて行動しているのだろうが……良い迷惑だ」
「残念。ソレはハズレだぜ」
そっくりそのまま、奪い取った体の持ち主である彼の言葉遣いで話す『彼』は、実は律儀な性格かも知れない。素のまま話したら……酷く違和感だろうから。そこらへんを、たぶん分かってやっている。『彼』が現在遣っているのが、そういう性質の力であるだけかもしれないが。
「俺はまだ起きてねーよ。半分寝てる」
「当然のことだろう?そうでなければ変な話だ。お前には動く『許可』は下りていない」
「ご名答。忌々しいことにな。ってことな何だ?さっきのは大雑把に言っただけかよ」
「いちいち、細々と事を言うつもりはない。下らないからな」
そう言って肩をすくめると、『彼』はさもおかしそうに笑った。
相変わらず、ミハエルの表情で。
「お前って、相変わらずなんだな。俺も一応識ってるけど…やっぱ、実物前にすんのは違うぜ。現実感が圧倒的に違う。おもしれぇ……けど、あぁ、そうだ。お前殺しとこ」
つい、と。
ミハエルが……否、『彼』が『彼』の表情で、こちらを見た。
それはそう。ソコにあること自体が何よりも違和感を与えるような、歪な作り物の表情。
それを認めて、ティエリアは目を細めた。
「ようやく本性を出したか…」
「余裕綽々って感じ?けど、こいつの能力って、地味だけど案外使えるぜ?」
言いながら一本のナイフを取り出し、それを『彼』は上へと投げ上げた。
宙に放られたソレは一瞬ピタリと止まり、鋭い切っ先が自分めがけて向かってくる。
そして、顔面に突き刺さる間際。
ナイフは凍り付き、地に落ちた。
「なっ……!?」
「良い支援だ、ヨハン・トリニティ」
ちらりと家の影にいる、あらかじめ支障のないことをある程度話しておいた、トリニティの長男に目をやり、ティエリアは動揺している『彼』の元へと駆ける。
慌てて身を離そうとしたときにはもう遅い。自分の手は、ミハエルの体に触れる直前。
手は触れ、そして……思い切り、押し返された。
「……っ」
「『く……ッ…忘れてた…そうだ、お前は僕に対抗できる力を……っ」』
よろめいている、ミハエルと『彼』の姿がぶれるのを、押されて崩れたバランスを直しながら、冷静に見る。効果はどうやらあったようだが(現に、喋り方が素に戻っている)、それでも十分とは言えなかった。『彼』を追い出せるほどではない。
「『ここは……一時撤退だね……」』
呟いて身を翻し、『彼』はティエリアが止める間もなく走り出した。
それを見送り溜息を吐く。作戦は失敗、である。ただでさえ大変な現状は、さらに混乱すること間違いはない。森にいる彼らの援護に、早急に向かわなければ。