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「質問ですが……どうして彼はここで眠っているのでしょう?」
「……俺に訊くな」
むしろこちらが訊きたいと、そういう思いを込めてティエリアは溜息を吐いた。
諸々の事柄が起こっている森に来てみれば……一番最初に出くわしたのが、この、気に体を預けて瞳を閉じている男。しかも狩人のくせに、他の気配が近付いてきたというのに起きる様子もない。
さすがに名うて、なのだという狩人の彼が、何の理由もなく自分たちの接近に反応しなかった……というのは考えにくい。腕が立つというのはつまり、強い敵と戦うということであり、多くの危険な経験してきたということなのだから、こんなに無防備でいては、すでに命はなかっただろう。というこれらの事柄から何か、外部からの影響があると考えられるのだが。
この辺りで何か、そういう要因と成り得る物はあっただろうかと、ティエリアは頭を巡らせる。最近こちらに来たヨハンには聞きようがないので、自分だけで考えなければ逝けない。こういう時にヴェーダが使えれば楽なのだが……全てを見せるあの鏡に、持ち運びが不可という欠点があるのは致命的な気がする。使いたいときに使えない。手鏡だったら携帯できただろうに、鏡の制作者は何を考えて巨大な様にしたのか。
いや……愚痴は置いておくとしよう。考えるべきはロックオンの方だ。今もヨハンが肩を軽く揺すっているのに、ピクリとも動こうとしない彼。これは……絶対に異常だ。ここまでされて尚、目が覚めないというのは。
「起きないな……ん?」
「どうかしたのか、ヨハン・トリニティ」
「あの場所が…」
何かに気付いたらしいヨハンが指さした場所……森に人工的に作られている道に面するようにある、木々の間にある場所。そこには何もなかった。あるのは地面に生えている草だけ。これが、一体どうしたというのだろう?
「何か気になることでも?」
「いや……どこか、不自然な場所の空き方だと思っただけです」
煮えたぎらない返答は、彼自身もまた何がどう気になっているのかを、しっかりと明確に捕らえられていないからこそだろう。何となく、理由もないのに、それでも変だと首をかしげる時というのは誰にでもあるものだ。
そう思う根拠もあるだろうと、背丈の短い草たちの方を見る……が、どうしても理由が分からない。それはあまりに当たり前すぎて、確かに不自然ではあったが…疑問を抱こうと考えるほどではない。
「不自然ではあるが、気にする必要はないと思うぞ」
「……そうですね」
「それよりもロックオンが……」
問題だ、そう言おうとしてしかし、ティエリアは目にある物を映して言葉を切った。
それは彼の傍らに落ちている銃……の中身にある銃弾の姿故に。
「白い銃弾……」
「ティエリア君?」
「……なるほど」
銃を手に取り、銃弾を間近で見て納得する。そういうことか、と。
納得して、ティエリアは素速く銃を構えた。
そして、銃口から放たれた白い銃弾は、瞳を閉じる狩人の胸へと……