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あれだけやって、アレルヤが怒らないわけがないと思うんだ。



~side 刹那~

「やぁ、刹那」
「アレルヤか……」
 食堂でキュリオスのマイスターに会い、刹那は立ち止まった。
 さて……どう反応すればいいだろう。彼のもう一つの人格、ハレルヤが騒動を起こしたのはつい先日。相も変わらずスメラギは使えないため、次のミッションや前回のミッションの後始末、といった事柄も手を付けることができない状態だった。
 そんな時にアレルヤに会って、どう返事をしたらいいというのだろう?
 悩んでいると「ご飯、取りに行かないの?」と促され、彼の後に続く。ほんの少しの猶予が出来たらしい事に安堵しながら、朝食を取る。
 飲み物を選ぼう、というときに事は起こった。
「何にしようかな…」
 そう言って選び始めたアレルヤに、違和感を覚える。
 いつもなら、悩んでいる場合は「ハレルヤ、どれがいいと思う?」と言っていたのだが。それが今日はないというのは、一体どうしたのだろうか。
「アレルヤ」
「何?変なことでもあった?」
 こちらを見ずに答える彼。
 かまわずに刹那は問いかけた。
「今日は訊かないのか?」
「何をさ」
「ハレルヤに、飲み物を何にするかを」
 その言葉にピクリと反応したアレルヤが、こちらを向く。
「……ねぇ、刹那。それ誰?」
 …瞬間、刹那は自らの浅はかさを悟った。
 ダメだった。この話題は地雷を踏むような……いや、核を落とされるような………ソレも違う………ガンダム四機を生身で相手にするくらい、そう、それくらい危険な物だった。味方はゼロ、装備は木の枝、木製の鍋のフタ、下着のみ、裸足といったところ。…あるいは、この表現でも控えめかも知れない。
 誰だってそう思うに違いなかった。
 アレルヤはニコリ笑っている。笑っているのだが……その『笑い』が『嗤い』になっている今ならば…もしかしたら、ティエリアでさえ恐怖を覚えるかも知れない。それほどに恐ろしさを感じる嗤い。それに曝されてしまえば、固まるより他に取る道はない。
 これは……怒っているのだろう。何に対して、というのは考えるまでもない……先日のハレルヤの件。それしかない。だからこその『ハレルヤって誰』発言だったのだろう。
「刹那、どうかしたの?」
「え……あ、別に」
 考えるのに夢中で、顔を覗き込まれるまで接近に気づかなかった。不覚。
 ハッと我に返った刹那は、軽く首を振った。
「そっか…なら席に着こう?いつまでも立ってたら、皆の邪魔だよ」
「皆…?今のお前がいたら、誰も寄りつかな……」
「何か言った?」
「…何でもない」
 答えながら思う。
 ……絶対に、自分はアレルヤを怒らせないようにしよう。


~side ロックオン~

 通路を歩いていると、バッタリとアレルヤと出くわした。
 つい先ほど、スメラギの様子を見てきたばかりである。何ともいえない気持ちを抱くのだが……まぁ、あれは彼がやったのではないのだし。あくまで、やったのは彼の第二人格。その上アレルヤは干渉のしようがなかったそうなので、彼にとっても不幸な事故だったのだろう、アレは。
 だから。
「よう、アレルヤ。部屋に戻るのか?」
 ロックオンは、いつものように話しかけた。
 アレルヤも微笑んで返してくれたのだが……どこか、普段と雰囲気が違うような。
 そんな訝しさを感じているとも知らず、彼は答えた。
「違いますよ。部屋から出てきたところです」
「へぇ……で、その手にある袋は何だ?」
「これですか?」
 軽く持ち上げられた袋から、ガタ、という音がする。……何が入っているんだろうか。気になるが、詮索をしたらいけない気がしていた。
 それでも訊かなければ、と思ってしまうのが貧乏くじたる所以だろうか…。
「中には何があるんだ?」
「部屋から持ってきた色々な物ですよ。色々。少なくとも僕の私物ではないですけど」
「え…私物じゃない?でもお前、部屋から持ってきたって…」
「そうですけど」
 ならば借りていた公共の物か、という考えは浮かばなかった。ハレルヤならともかく、アレルヤはさすがに。というか、ハレルヤでもそんなことはしない。
 彼の部屋から持ち出され、同時に彼の物ではない『色々』。
 何だろうと考え、ある物に思い至った時、再びアレルヤが口を開いた。
 もちろん笑顔付きで。
「たまには痛い目にあってもらわないと、分かってもらえないようなので」
「そうか……」
 予測は正しかったと、彼の言葉で確信した。
「えっと……ゴミは向こうに持って行けばいいんですよね」
「あぁ…」
「分かりました。ありがとうございます。じゃ、僕はこれで」
 失礼します、と笑顔で立ち去る背中を眺めながら思う。
 ……ハレルヤは今、起きているのだろうか。だとしたら悲劇だ。あの袋の中にはきっと、彼の…アレルヤの第二人格である彼の私物が全て入っているのだろう。いくら同じ体でも性格が違うのだから、集める物や惹かれる物は違うだろうから……アレルヤの部屋には、ハレルヤが持ってきた物も有ったに違いない。数は知らない。両者共にあまり物は持たないタイプに見えるので、少ないかも知れないが……。
 まぁ…とりあえず、そこは放置の方向で。それよりも問題が一つ。
 ……先ほどのアレルヤの笑顔、それに感じた恐怖をどうやって拭い去ればいいだろう。


~side ティエリア~

「スメラギさん、入りますよ……って、ティエリア。君も来てたんだ」
「アレルヤ・ハプティズム、一体何の用だ」
「ゴミ捨てがてらにちょっと様子見…けど」
 ちらりと、戦況予報士の方を見て、アレルヤは呟いた。
「……本当にダメだねこれは…」
 ぐてり、としているスメラギは、どこからどう見ても見紛うことなく役立たずだ。ミッションプランを立てることはおろか、放っておけば一日中ダラダラとしていかねない。誰かが支えなければいけないのだが…皆、匙を投げてしまっている。いくら待てども戻る気配がないのだから、仕方がない事とも言えるだろう。
 ティエリアは溜息を吐いた。
「誰のせいだ……」
「ハレルヤのせいだよね」
「そう、ハレルヤの…………………!?」
 言いかけて、思わずティエリアはアレルヤを凝視していた。
 『あの』アレルヤが、こんなにハッキリと強い調子で『○○のせい』と口にすると、一体誰が想像しただろうか?常時ならばハレルヤもまたアレルヤの一部だからだろう、「……ゴメンね」とか返してくる彼が、ハッキリと彼のせいだと認めた。
 困った顔をしていたアレルヤだったが、何かを決めたらしい。
 こちらを向いて、申し訳なさそうな顔をした。
「ティエリア、ちょっとだけ部屋から出ていてくれないかな」
「…何をする気だ?」
「いいから。お願いだよ…いいよね?」
 ここで嫌だ、と言うこともできただろう。自分の質問に答えていないし、あまりに一方的な頼みだ。なのだが……。
 数秒後、ティエリアは部屋から出ていた。今のアレルヤに逆らってはいけないと、頭の片隅で警報が鳴っていた。かなり精度の高い警報が、もしも実行したら後悔しか残らないだろうと告げていたのだ。
 そして。
「もういいよ、ティエリア」
 ドアからヒョコリと顔を出したアレルヤに招かれ、ティエリアは再びスメラギの部屋に足を踏み入れた。
「あら、ティエリア。こっちに来てたの?」
 そこにいたのは、元通りのスメラギ。
 驚きに目を見開いていると、何かをしたらしい彼が言った。
「これでいいかな…?」
「……一体、何をしたんだ?君が何かしたんだろう?」
「企業秘密だよ、ティエリア」
 そう言って笑みを浮かべる。
「それにしても、後始末は大変だね………これからは、こんなことが無いと良いんだけど」
 それは苦笑とはほど遠い、畏怖すら抱く笑みだった。


~side ハレルヤ~

 ここは休憩室。いる人間はアレルヤだけで、正確に言うとハレルヤもいるのだが……言い出すときりがないので。
 それはともかく…ハレルヤは必死だった。
 必死で、頬杖をついて不機嫌そうに瞳を閉じている片割れに話しかけていた。
『アレルヤ』
「……」
『なぁってば』
「……」
『もしもーし』
「……」
『……いい加減、返事しろよ』
「……」
『その……』
「……」
『すみません…返事してください』
「……」
『あー、もう本当にすみませんでした!ですから返事をしてくださいッ!』
「……反省は、してるのかい?」
 ようやく返ってきた沈黙以外の返事を嬉しく思い、何も考える暇もなくコクコクと頷く。反省しているのは事実だったし、ここで頷かないと先の状況に逆戻りだと分かっていたから。生半可な拷問より辛いアレはもうゴメンだった。
 ハァ、と息を吐いて、片割れは頬に当てていた手を額に移し、背もたれに全体重を預けた。疲れた、という意思表明。
「なら……分かってるね?」
『あぁ…分かってるよ。こういう事を、これからするなってことだろ?』
「ご名答。特にスメラギさんの事。大変だったんだから…いい?約束を破ったら、」
『そっから先は言うな!聞きたくねぇからッ!』
「そう?」
 クスクスといつも通りに笑い、アレルヤは立ち上がった。
「じゃ、部屋に帰ろっか」
『なァ…捨ててきた俺の物は?』
「……仕方ないなぁ…今なら間に合うかな。取ってくるよ」
 そして、ハレルヤとアレルヤは、共に休憩室から出た。


~side アレルヤ~

 それから数日後。
 もしかしなくても、脅かしすぎたのかな……と思う。
 ハレルヤはいつも通りになった。まぁ、彼に対しては付き合いが長いから、数回くらい怒ってしまった時の自分を見られている。なので、ショックもあまりなかったらしい。
 問題は三人のマイスターだった。
 出会い頭のそれぞれの一言を挙げてみよう。
「アレルヤ……いつものアレルヤか?」
「なぁ、ハレルヤは生きてるか…?」
「すまない……俺たちも何らかの手を打つべきだった…」
 ……こんな三言。
 聞いた瞬間、申し訳ないことをしたと思った。けれど、怒ったことに後悔はない。たまにはガツンと言ってやらないと、片割れは分かってくれないので。
 そんなハレルヤ曰く。
 さっと血が上るような状態でなく、今回みたいにじっくりと状況を見て、なおかつ怒るパターンが一番恐ろしいのだという。自分のことなので自分では見えないのがネックだが、こういうときに片割れがいるとありがたい。
 とにかく…もう大丈夫だと伝えようと、アレルヤは微笑みを浮かべた。
「みんな…ゴメンね?」
「優しい微笑み……アレルヤ、本当に戻ったんだな!?」
「え……あ、うん」
 頷くと、三人が一斉に抱きついてきた。
 何?と唐突なことに混乱していると、三人は口々に言う。
「頼む、アレルヤはそういうアレルヤであってくれ…!」
「お前は俺たちの癒しなんだからな!?キャラチェンジはするなよ!?」
「アレルヤ・ハプティズム…その笑みを浮かべてこそ君だ……」
 ……そんなに怖かったのか。
 苦笑混じりにそう考えると、心の底から声が響いた。
『怖いなんて言葉じゃ済まねぇよ…ありゃ』
(…そう?)
 まぁ、片割れが言うならそうなのだろうけど。
 気をつけないとな…そう、思った。


ま、それも全ては貴方たち次第ですけど…ね。
(……俺は善処するぜ)


たまにはアレルヤだって怒ると思った今回の小説。
ドラマCDでは、ハレルヤはやり過ぎです。あれはキツイ。特にアレルヤが可哀想すぎる…。
だから、ちょっと反省してもらおうかと。以前から『怒ったアレルヤ』は書きたかったので丁度良いですね。
いつか、ハレルヤ以外に対して腹を立ててるアレルヤを書いてみたいです。
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