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刹那は、目の前に広がった光景に呆然としていた。
元々は木々が茂っていたのだろうそこには、幾つもの大木が倒れていた。燃えて、焦げて、黒ずみになり、それでも形を辛うじて保っている、幾つもの木々。
だが違う。それが、衝撃的だったのではない。
そこは、血の海だった。
何人もの男が倒れている。うめき声さえ上がらない。皆、血を流していた。胸から、腹から、腕から、足から、首から、額から、いたる所から。酷い場合は眼球が抉られ、内蔵がはみ出、骨が見え、喉が裂かれ、頭がかち割れて。顔には絶望の色、助けを請う様子、憎々しげに睨みつける目、叫んでいたのだろう開いた口、そして……真っ赤な海に浮いている髪は、毒々しいほどの紅に染まって、それはまるで元の彼らを塗り潰すかのようで、生をあざ笑うかのように鮮やかで、
「おい、ガキにナマイキ女」
声が聞こえたがそれは遠く、ただこの光景から目が離せず、自分自身も死んでしまったかのように身動きが取れず、あぁ、もしかしたら本当は死んでいるのかも知れなくて……そこまで考えて、ようやく我に返った。
何を馬鹿なことを考えていたのだろう。自分は生きている。死んでいるのなら体温はないハズだし、思い感じることも不可能だ。
だから、自分は生きている。
「ハレルヤ……ネーナは」
「気分が悪いってよ。あっちの木陰で休んでる」
「そうか…」
自分も休むべきだろう。さきほどの、一時的なショックによる感覚の麻痺……なのだろう、さっきのあれは……も解けた。あとは、今の光景を自分の中で消化するだけだ。いつまでも引き摺っていてはいけない。
だが……それにしても、ハレルヤはどうしてここまで動じていないのだろう?年上だから、自分よりも精神的に大人……とは思えないが、とにかくそういう理由では括れなほどに冷静だ。こんな状況に慣れているかのように。
そう思い、刹那は頭を振った。そんなこと、あるはずがない。町の周辺は基本的に平和だ。毎日のティエリアとハレルヤのケンカといった行事はあっても、概ね。だから、状況に慣れることはできないはずだ。平和なのだから。この紅い海ができている状況が異常で、その平和と相容れないはずだから。今までにこんなことが、あるいは似たようなことが、おこったハズがない。
「お前も休んでこい。俺はちょっと見て回る」
「俺も行く…」
「休んでろって言ったろ。いざってときに動けませんでした、じゃ俺が困るんだよ」
正論だった。
グッと詰まった刹那は、仕方なくネーナがいる方へと向かう。
「ネーナ・トリニティ」
「……」
そして瞳に映ったネーナの姿は、うつむいているようで、どこか弱々しく、微かに震えているようだった。思わず、声を掛けてしまうほどに。
次は何と声を掛けようかと思案していると、ポツリと、彼女が言葉を落とした。
「……に……てる、の」
「……?どうしたんだ…?」
小さな声は耳に届いたが、意味を成す単語として伝わらない。
訝しく思い聞き返すと、彼女は顔を上げた。
浮かんでいたのは、恐怖。
「あの人たちの傷の切り口、何かに似てると思ったら……ミハ兄のだよ。ミハ兄が人をいつものナイフで切ったときと、全部一緒なの……ッ…何で…?ねぇ、何でなの……?まさか……ミハ兄がやったんじゃ……無い、よね…?」