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一本の枯れた木にもたれ掛かり、アレルヤは息を吐いた。
今の姿は黒衣の長髪ではない。いつも通りの服装に、長い前髪で顔の半分を隠している、普段と変わらない姿。
歩いて……否、体を引き摺って来た方を見れば、黒く変色した草が点々と、季節に合わず、木の葉が全て落ちている木々がある。それらは、一瞬で枯れてしまった植物。若々しかった木はすでに年老い、小さな動物の体重さえ支えられない。それほどに朽ちている。
「おかしいな……症状の進行が速すぎる…」
「大分、お疲れのようですね」
ふいに聞き慣れた声が耳に届き、ほんの少し笑みを形作って背後を振り向く。
案の定、そこにいたのは白い髪に金色の瞳の少女。
「やぁ、ソーマちゃん。裂け目でも作って出てきたの?」
「……その言い方は、町の事情を知っているということで?」
「正しいよ。君の想像通り、あの壁は僕が作ったからね」
見たでしょう?町に、屋敷に結晶を『埋め込む』ところを。
そう続けると、彼女は渋い表情を浮かべた。
「えぇ。間近で見ていたというのに……つい先ほどまで気付くことが出来ませんでした。不覚です……私としたことが……っ」
「あ……あのね…?そんなに気にしなくても…」
「いいえ。私は直ぐにでも気付かなければ、そして駆けつけなければいけなかったんです」
すぐ隣に歩いてきた彼女は、自分の傍らに腰を下ろした。
その様子はいつもと同じように見えたが、若干……落ち込んでいるように思える。気づけなかったことが、それほどショックだったのだろうか。
別に、誰もそれを責めはしない。そもそもアレルヤは勘づかれないように、全てのことを行っている。ティエリアはどうだか知らないが、ハレルヤだって全てを分かってはいないだろう。それでいい。それが正しいのだ。
しかし、どうやら彼女は自分が何をしていたかに気づいてしまったらしい。あの防壁のこともあったし、何より今のこの状態が動かぬ証拠となっていた。
「一体、どれほど『力』を使ったんですか?」
「数えるだけでも四回は。無くなったのは『心配』と『容赦』とか、色々かな。どれも無くなったら大変な物だよね……」
「大変…?そんな言葉で済ます気ですか?」
「僕は、いくら傷ついてもいいんだよ。問題は君たち。僕の世界を構成するみんな」
クスリと笑うと、彼女の渋面はさらに渋くなった。
……分かっている。ソーマは、自分のことを『心配』してくれているのだ。今は自分から抜け落ちている要素だから、ハッキリと実感を持つのは不可能なのだが。それでも、分かる物は分かるのだ。付き合いは長い。
「その意見については……何も言いません。どうせ変わりもしないでしょうから。けれど……アレルヤ、四回も使ったというのはいただけないです。その『【理】の書き換え』という能力は……貴方には、負担が大きすぎる。そして、代償もまた…大きい」
「知ってるけど…でもね」
どうしても、使わなければならなかった。
全ては周りにいる人ビトのため。彼らの安全のためなら、いくらでも使おう。ただし、使用回数はほどほどに。それは……守るべき規律。
とにかく、この『力』を使わなくなることは無いのだろうと思う。特に今回なんて、最善を尽くすのなら手段を選ぶ暇はない。確実に、間違いのない方に行くためには、より有効な手段を使わなければならないのだから。
だから、後悔なんて物はない。
あるのは、『行き過ぎた』時についての不安だけ。