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マリナ様出現率が多い…というか、マリナ様の性格が……いや、もう何も言うまい。
シーリン視点です。
07.白紙
「ここにサインして欲しいの」
「……」
笑顔のマリナと、顔を引きつらせた少年…刹那、といったか。
ここ最近、しばしば起こる事態の中で、シーリンは窓際に立ってコーヒーを啜っていた。何度目だろうか、この状態は。少なくとも一ケタではない。十回……いや、二十回はいったかもしれない。皇女様もよくやるものだが、相手をしている少年も同様だ。嫌なら逃げて、二度とここに来なければいいのに。
しかし、そうも言っていられないのだろう。何と言っても相手はマリナ・イスマイール。アザディスタン王国の第一皇女にして……どこか恐ろしい人、である。王宮裏にあるアンフを洗うことを日課として、ラフマディーの胃に負担を掛けるような行いを多々している。まぁ、胃に関してはシーリンも似たような物だが、すでに慣れと諦めによって克服したと言っても過言ではない。
そんな相手に好かれてしまった少年に同情し、それでも自分が可愛いので助けを出さずに眺めるに止める。マリナの仲間にならないだけ、まだマシというものだろう。少年だって、そのくらいは分かっているはずだ。
「ほら、早く早く」
「俺は断ったはず…」
「刹那……私のお願いが聞けないの……?」
ざわり、と空気が震えた。
「いいのね、刹那……そんなことを言って…」
「……ッ」
微笑みを浮かべて詰め寄るマリナと、気圧されて後ずさる少年。……いっそ哀れにも思えるが、それでも手は出さない。
さぁ、姫様は何をするのかしら?……と眺めていると、彼女はクルリと体の向きを変え、シーリン横の窓へと走り寄ってきた。
「姫様?」
自分の呼びかけにも答えず、マリナは窓を開いて、叫んだ。
「みなさん聞いてください!今この部屋にはソレスタル・ビーイングの…モガッ!?」
「落ち着け、マリナ・イスマイール!それをバラせばお前の安全の保証はないぞ!?」
「ちょっと…口から手を離して刹那。喋りにくいわ」
「俺の話を聞いていたのか……?」
「大丈夫よ、返り討ちにするだけだもの」
その一言に、少年は沈黙した。
やっぱりこうなったわね。そう思いながら、先ほどのマリナの発言を思い出してみると……かなり危ない発言もあった気がする。ソレスタル・ビーイングが何とか…多分、刹那という少年が関係者なのだろうが、まぁ、聞かなかったことにしよう。そのほうが自分のためだし、少年のためだ。というか……こんなことで正体をバラされては、少年が哀れを通り越してしまいそうな気が。
どこか悔しげにうつむいている少年の元に、婚姻届を取りに行っていたマリナが駆け寄る。そして、笑顔で書類とペンを差し出した。
「いいわね、刹那。書かなかったら言うから」
「……分かった。マイスターには守秘義務があるからな…」
「分かってくれて嬉しいわ」
ニコリと微笑むマリナと、絶望に彩られた少年の顔が対照的だった。
カリカリ、という音が響く中、ならこの少年が国王になるのかと考えている内にサインは終わったらしい。マリナに書類を押し付けた少年は、だっと駆けだしていった。
去っていく背中を眺め、皇女様に目をやって…シーリンは固まった。
「うふふ……刹那、貴方……やってくれたわね…」
嗤うマリナの手の中にあったのは、婚姻届でなく白紙の紙。少年が渡す間際にすり替えたらしい。
少年も、なかなかの手練れらしい。
これからが大変と思いながら、しかしシーリンは笑っていた。
次は、どうやって乗り切るのかしら?
大魔王、マリナ様。当サイトのマリナ様は、総じてこういうマリナ様です。何度も言いますが、これしか書けません。本当にゴメンナサイ、マリナ様。
まぁ、どのみちシーリンは苦労していると思う…。