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話してみて、やはり、彼の考え方はこのままでは変えようの無いことなのだと実感する。
彼は本当に……彼という存在を小さく見過ぎている。実際はソーマたちにとって、とても大切なヒトなのに。彼もまた自分たちの持つ世界の、歯車の一つだというのに。そのことを分かっていない。
だから、自分を構成する物が削れていっても、これだけ平静でいられるのだ。まるで他人事。どうでも良い、というところでは同じなのだろうが。だが……見ているこちらが冷静ではいられない。危なっかしいというレベルは既に超えていて、目を離したらふらりと消えることも冗談でなく、考慮に入れなければ……という所が今いる場所だ。
恐らく、ハレルヤとティエリアが…あまりに多い来訪者を放っていた理由は、何かキッカケを作り出そうとしたからだろう。状況によっては自傷行為をも厭わないだろう彼を、どうにかして変えるための機会を。
果たして効果は出ているのだろうか……と、ソーマは溜息を吐いた。
見たところ、あまり成果は無さそうだが……ゆるやか過ぎて気づけないだけかもしれない……いや、そうだと信じよう。
「……いい加減、少しは体力の方は回復しましたか?」
「あー、微妙かな…。まだ気怠い感じがする…」
「なら、もうちょっと座っていましょう」
無理もない、と答えながら思う。
仕方がないのだ、この状況は。アレルヤは『【理】を書き換える力』を持っている。それは後付けされた物で、本来の彼の能力とは違う物。したがって、彼の体はその『力』に合っていないのだ。
例を挙げるとしたら……そう、無重力に慣れている人を、重力が働く場所へと何の事前予告も無しで放り出すのと同じ。いきなり馴染めというのは無理がある。それと、全く同じだ。体が、それに合っていない。順応するには暫くの時間が必要だろう。
ただし、彼の場合、その順応さえ出来るかが不明なのだが…。
「いいですか、アレルヤ。これからは『力』は出来るだけ使用禁止です。私も阻止できるように力を尽くしますので……それから、ハレルヤと合流します」
「え……」
「え、じゃないです。認めたくはありませんが、もしもの場合で貴方を完全に止めることが出来るのは、ハレルヤとティエリア。ティエリアの方は居場所が分からないので……まぁ、ハレルヤもですが…とにかく、森にいると分かっているだけ、ハレルヤの方が探し易いです」
「……じゃあ」
最後の抵抗とばかりに口を開くアレルヤ。
聞くだけ聞いておこうかと視線を合わせると、その瞳には諦めの色。無理矢理置いていこうにも、ソーマは事情を知りすぎているので事前に察知し、対策を打たれるから実行不可だろうと考えたようだ。あと、逆らったら後が怖い……と思っているらしい。付き合いが長い分、目を見るだけでこんなにも分かる。
「連れて行くのはハレルヤだけ、っていうので……ダメかな?…あ、ちゃんとソーマちゃんも来ても大丈夫だけど…」
「他の二人は巻き込みたくないとでも?」
「うん。傭兵…あ、アリー・アル・サーシェスっていうんだけど、とにかく彼だけは刹那にまかせたいと思うんだ。サポート役にネーナがいたら安心だし、あそこは問題無いかな」
それに、と彼は言葉を続ける。
真剣な光を瞳に宿して。
「人間じゃない方の彼、多分『月代』だから…あまり、人がいるのも危ないかなって。何が起こるか分からないから」
「……『月代』、ですか?何でそんな種族がここに…」
「さぁ。本人に聞いてみないことには分からないかな」
言いながら、ゆっくりと立ち上がる彼にならう。
それから、二人は枯れた木々が『あった』場所とは逆方向へと足を向けた。