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こういうときの一番の対応は「他人のフリ」
チビスターズ第四話 ⑤
「いないな……」
「いないね……」
フェルトは、ロックオンと共にエスカレーター横の椅子に腰掛けていた。このフロアは一通り回ってみたが、影も形もなかった。人に訊くにしてもこの人混みで、それぞれがセール品に意識を集中している。果たして、小さな二人に気づいた人がいるかどうか。
いたとしても、その人がこのフロアに止まっているという道理はない。ようは、手がかりが動く人間であることが問題なのだ。
缶ジュースを飲みながら思う。小さな二人は可愛いが、こういう時に酷く困る。いつもの様な大きさなら、特にアレルヤの方なんてあっと言う間に見つかるだろうに。というか、気づかないうちにいなくなったりはしないだろう。今回の件は彼らが小さくなってしまったからこその事柄。
「あー、手がかりゼロだろ?どーすんだよこれから……」
右手にコーヒーの入った紙コップを持ち、左手は額に当て、背もたれにもたれかかって嘆くロックオンに、ある意味…追撃の一言を口にする。事実なので。
「最終手段は迷子の呼び出し……」
「それは…できれば避けたい」
すると、彼は本心から嫌そうな顔をした。
「んなことしたら、アレルヤはともかくとして、刹那にしばらく恨まれる……気がするんでな。そいつは本当に最後の手段だ」
「あぁ……刹那、子供扱いは嫌がってたもんね」
「十六は充分子供だろ、なぁ?」
「十四の私に訊かれても、ちょっと困る」
フェルトたちのような年代の一歳差というのは、大人の一歳差よりも大きいのだと言うことくらいは知っている。周りに二十歳越えが多いからだろうか、そういうことを多く教えてもらえるのだ。
とにかくそういうわけだから、二歳も離れていて、ついでに言うと性別まで違う彼の考えは、本当に分からないのである。歳以上に、その性別の差が酷く大きな断層を作っているような感じだ。
「それより、次はどこに行く?」
「一階から順繰りにってのは無駄だよな…アイツらのことだし、この階からは離れていないと思っても支障はないだろ」
「あまり遠いところに行ったら、見つけにくくなる…」
「そゆこと。ま、特別な事情があったら別だろうが、そんなもんは無いだろ」
彼の言うとおりだ。こんな普通のデパートで彼らが動くような『特別な事情』があったら、それこそ恐ろしい。ここにはたくさんの客が来ているのもあるし、こんな所ですら問題があるというのはCBとしてもちょっと。活動の効果は出ているのかと少々、心配をせざるを得ないことになるし。
誘拐は……無い、か。あの二人は強いから、連れて行こうとした方が返り討ちにある。特に刹那は、手加減なんてものをしそうにない。もしも実行しようとした人がいたら、心の底から冥福を祈ろう。冗談抜きで。
「フェルト、ジュース飲み終わったか?」
「…もう少し」
「なら、飲み終わったらもう一度歩くぞ」
「うん」
「……けどま、それでもアレが収まるまで待つか」
「…………うん」
頷きあうフェルトとロックオンの耳には、聞き慣れた二つの声が大音量で言い合いをしているのが聞こえていた。テメェが最初に言えば…とか、ギャーギャー騒ぐしかできないのか、やかましい…とか。
やはり、あの二人を一緒にしてしまったのは間違いだったのかも知れない。
すでにフェルトはジュースを飲みきってしまったが、それでも原因不明の言い争いが聞こえていたから、決して自分たち二人は動こうとはしなかった。
さすがに、こういうことにまで巻き込まれるのは遠慮したいというのは、ロックオンとの共通の思いだった。
「もう一杯、飲んどくか……」
「あ…それいいかも。それ飲んだらケンカの具合も…ね」
「次は何味がいい?買ってきてやるよ」
「えっと……リンゴ。あったらでいい」
「了解。んじゃ、ちょっと行ってくる」
「その間に、あのケンカが終わればいいけど……」
「……無理だろそれ」
「だね……二杯目を飲み終えても……ちょっと心配な感じなのに…」
他人のフリ…をしてはいるけど、少し心配ではある。
…止めないと止まらないから。
言い合いをしているのはハレルヤとティエリア。前回の話とリンクしています。
あの二人が本気でケンカを始めたら、ほとんど人は止められないと思います。