[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
118
ユメの中……そう呟く狩人から視線を外し、ハレルヤは今まで見ていたモノ……いや、『映像』に瞳を向け直す。実体でなく、目の前でただ繰り広げられる光景なのだから、『映像』という言葉が適切だろう。手の施しようのない、近くて遠い場所。
目の前に広がっているのは、幼い頃の、歪みながらもまだバランスを保っていた日々の姿。勉強が休みだというティエリアと、久しぶりに屋敷の外に出たアレルヤと、小さかった自分は庭で話していた。作戦会議……ただし、子供のイタズラのための会議とは全く違う。そんな生やさしいモノではない。必死で、知恵を出し合っていた。生きるために……生かすために。
そもそも、自分たちは引き取り手の男が、出会ったときから嫌いだった。あのアレルヤでさえ眉をひそめるほどに。それほど彼は酷い人間だったのだろう。そして、子供というものは本能的に、害になることを感じ取る。あの嫌悪感は、おそらくそれに類するものだった。今ならば、良く分かる。
それなのに引き取られたのは他でもない、施設の責任者が折れてしまったからだ。始めは引き取りたい、と言われていたティエリアの意思を尊重しようとしていた。そこは認めても良かったかもしれない……が、資産家であった男にいくらかの金を積まれ、あっと言う間に手のひらを返した。
結局、ティエリア一人でなく、自分たち双子も連れて行くという条件を呑ませることに成功はした。
……あの時から、自分たちは離れていてはいけないと、確かな確信があったから。
そしてその確信は、決して間違ったものではない。
『いい加減にしろよ!お前が我慢する必要はないんだ!』
『けど……僕たちは子供で、庇護者の存在の有無が生きるか死ぬかを分ける』
『庇護者に殺されては、元も子もないだろう』
何とか連れ出そうとする自分に、強情な片割れ。溜息を吐く身内。
あれは、ほとんど毎回繰り返されるやり取り。けれども最終的には、アレルヤが意見を曲げずに自分たちも従うしかなかった。
今だからこそ思う。あの時、無理矢理でも手を引いて出て行けば良かったのに、と。
「ハレルヤ……これは」
「だから言ったろ?有るのは、思い出したくもねぇ昔の話だけだってな」
「思い出したくも、無い…」
「そ。眼鏡は勉強のために軽い軟禁、俺は家事労働とかそーゆー系全部押し付けられて、アレルヤは……アイツが一番辛かったハズなのに、一番文句を言わなかったんだよな」
……そして、我慢の限界は訪れ、爆発した。
その時の話は自分たちの中でも禁忌とされるほどで、しかし、いずれは向き合わなければならない三人共通の『過去の罪』だ。事態を止めることが出来なかった、それだけでも十分な罪になるのだから。
などと思い、違和感を覚える。
…そう、これから起こるであろう事柄は、口にするのも憚られる『禁忌』である。全てを知る身内の中でさえ、忌まれている事柄。
ならば、何故ロックオンがここにいるのだろう?
一緒に穴に落ちたから、では説明不足だ。少々体に負担が掛かろうと、他人をここに落とすことをアレルヤが良しとするはずがない。これはハレルヤも同様だが、生憎、自分には余裕がなかった。
考えられる理由は一つ。知られても良いと思ったから。
もしもそうだとしたら……この狩人は、片割れの中では『身内』に、一応であろうと何であろうと、数えられていると言うことになる……出会って二日目だというのに。
有り得ない話だった。そこまで彼が他人を信用出来るとは思えない。
前提がこれ、である。一体どうして彼がここに……思い、一つの可能性が浮かんだ。
昨日よりさらに……さらに昔に、ロックオンと会っているかもしれない、という可能性。
まさか。これこそ有り得ない。だとしたら、自分かティエリアも知っているはず。そして、片割れも彼と出会ったときに、もっと別の反応を返したはずだ。
だが……もしも、記憶に改変があったら?自分も彼も忘れているだけで、本当はあった出来事だとしたら?
だとしたら……一体何があったというのだ?
有るかも無いかも分からない…その不透明さが、不安をかき立てた。