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夏ならではの話題=アイスですね。



 今日は雨が……いや、嵐でもやってくるのではないだろうか。宇宙だけど。
 ついついそう考えてしまうほど、ロックオンには今、目の前で起こっている事態が信じられなかった。
 これが起こることは……一応ある。けれどそれは、自分たちにとっての特別であることに酷く無自覚な彼、ただ一人にのみに(あるいは事態を起こした彼自身にだけに)対して起こることであり、間違っても自分たちにまで…というのは無いハズだった。
 隣を見やれば居心地の悪そうな顔の刹那映った。手には棒付きアイスの入った袋。
 一見するとそれほど不思議ではない風景。だが、そのアイスをもたらした人物がこの場合は問題であろう。
「どうしたの?皆、食べないの?」
 もしかして中に何か仕込んであるのでは、と躊躇ってしまうロックオンと刹那を眺めながら、何でもないようにアレルヤは袋を開けた。彼は多分、自分たちと違ってこういう事態に多く立ちあっているから、疑問を抱こうという余地が頭にないのだろう。
 だから、ロックオンたちがアイスの袋を持ったまま、呆然と立っている理由が分からない。はぁ、と溜息を吐きながらアイスを取り出した。
「折角ティエリアがみんなにって買ってきてくれたのに…」
「アレルヤ…その時点で何か、疑問に思うことはないのか?」
「…特にないと思うけど……何かあるのかい?」
「いや……………やっぱりいい」
 どこか諦めたように溜息を吐く刹那と、ワケが分からないというように首をかしげるアレルヤを見て、今回は刹那の方が正しいなと心の中で呟く。先の通り、現況は有り得ない……あってはならない事態、その真っ最中なのだから。
 一体誰が考えるだろう。
 ティエリアが、『あの』ティエリアが、酷く目の敵にしている自分たちに、無償でアイスをおごってくれるという非常事態を。
 買ってきたのが箱に何本か入っている形式のアイスだったのが理由なのだろうか。人数分あったならば、一緒に買い出しに行っていたアレルヤが黙っているわけもない。ティエリアを何とか説得して、ということもあるだろう。しかし、刹那とのやり取りの最中にあったアレルヤの言葉から、それは無いのだろうと推測された。彼は『ティエリが皆に』と言ったのだから。
 ティエリア…どんな企みが……?と、そう疑ってしまうのも無理もない話だろう。
 この事態の起こりえた理由は何なのだろうか…そう思いながら、ロックオンは何気なしにアイスの箱を取った。ヒントでもないかと考えたのだ。
 箱に書いてある文字を目で追う。
「バニラ味で、中にドロドロの練乳が入ってます…ねぇ」
 それは器用に食べないと大変なことになりそうだ。ヘタすると、練乳が口の端から…なんてことがあり得る。しかもそれが、どんな人であれ注意していなければ高確率で起こりそう、というので手に負えない。事前に勧告しないと第一陣を避けるのは難しそうだ。
 にしてもティエリアが、こんな食べにくそうなアイスをわざわざ選ぶのには何の理由があるのだろうか……。
 つらつらとそんなことを思いながらアレルヤの方を向き……ロックオンは固まった。
 そこには、想像していたのと全く同じ光景があったのだ。
 ただ、その事態に見舞われている人物が問題だった。
 口元から白いモノが垂れているようで………これは破壊力抜群である。
 何事だ?と同じく顔を向けた刹那の隣で、一瞬の後に我に返ったロックオンは慌ててティッシュを手に取り、アレルヤの口元を指さした。
「アレルヤ!練乳、練乳付いてる!」
「え…あ、本当だ…」
 気づいたらしい彼の口元から練乳をぬぐおうとし…バタン、という音が耳に届いた。
 音のした方に顔を向ければ、そこには倒れている刹那の姿。
「って刹那ァ!?」
「大丈夫!?ちょっと刹那返事して刹那―!」
 口の端に練乳を付けたままのアレルヤが刹那の肩を掴んで前後に揺らすが……反応無し。冗談でなく本気で気を失っているようだ、
「……お子様に、コイツは刺激が強すぎたか…?」
「それって…?」
「あー……お前さんは分かんなくて良い」
 不思議そうなアレルヤに、何と言うべきだろうと目を逸らす。まさか正直に言えるわけもない。
 とにかく次の犠牲者(候補者・自分)が出る前に練乳を……と思った矢先、凄まじい殺気を感じてバッと振り向く。
 そこにいたのは案の定と言うべきか……今の今まで黙って成り行きを見ていたティエリアだった。
「ロックオン・ストラトスッ!貴方は何ということをしようとしているのですか!?」
「は……はぁ?」
 ビシッと指を突きつけられての強い言葉に、悪いことをしたわけではないのに思わずたじろいだ。
 え?え?と状況についていけてないアレルヤと、何となく事態を把握したロックオンを前に、ティエリアはぐっと握り拳を作った。手にあるアイスはプトレマイオスの空調の万全さ故であろう、溶けることを免れている。
「何故、俺が貴方たちにまでアイスを渡したと思ってるんです!?」
「何のため……なのかな…?」
「決まっている、ハレルヤの目を欺くためだ!スーパーでの君の言葉を元に考えてみると、どうやら俺の企みは君の半身に気づかれかけていたようだからな。『皆に』とすることで、少しでも警戒を緩めようと思った」
「……逆に怪しまれそうな気がするけどな」
 ポツリと呟くと、ティエリアは心外だと言わんばかりの表情を浮かべた。
 が、そんな顔を浮かべられるこちらの方が心外である。
 そう思ったが、口に出すような愚行は行わずに黙る。変なことを言ってしまうと……後が怖い。
「…まぁ、いいでしょう。そうだしても目的は達しましたから」
「そうなの?」
「あぁ。今の君の状態、それが目的だ」
「………やっぱりか」
 ロックオンは推測が確信に変わるのを感じていた。なるほど、彼が『皆に』とした理由、それから食べにくそうなものを買ってきた理由は何とも納得できる物だった。
 アレルヤは分かっていないようだったが、その顔がみるみる好戦的なものになるのを見て、少なくとも彼の半身は気づいたのだと知る。
 口元を手の甲で乱暴に拭い、ハレルヤは金に輝く瞳をティエリアに向けた。
「テメェ……ずいぶんなめたマネ、してくれたみてーだな」
「フン、騙された君が悪いのだろう?」
 言い返すティエリアと、睨みつけるハレルヤの間に、緊迫した空気が流れる。
 修羅場になるな……そう悟ったロックオンは、未だに気絶している刹那の襟首を掴み、そっと部屋から出て行くことにした。



たまにはこういう話もいいよな……っていう話です。

練乳入りアイスは実話。田舎に帰ってるときに買って食べました。ホントに箱入り。注意しながら食べても垂れるという強者でした。二、三回ほど負け(=練乳垂れた)ましたよ……美味しいんだけどなぁ…食べにくかった。
アレルヤは器用そうだけどドジっぽいから普通に、入ってる練乳に負けると思います。刹那は気にしないかもなぁ…ロックオンとティエリアは、そんなヘマは犯さない感じで。ハレルヤも近いかもだけど、たまに失敗する感じで。

花火ネタも書いてみたいけど…書けるかな?
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