[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
偶然というのは気まぐれで、だからこそ役立つのだけど。
チビスターズ第四話 ⑧
それに気づいたのは、ひとえに偶然のお陰だった。
何気なく目をやった人混み。その足下に、黒い小さな箱のような物が見えたのだ。何やらアンテナらしい物やスイッチが付いているところを見ると、何らかのボタン……しかも、遠隔操作型の何かのボタンであると推測される。
さてどうするか、なんてことは考えなかった。
手に持っていた飲み物をフェルトに預け、ソレに近づき素速く取る。通行人には邪魔にならないように、できるだけ速く。
それは上手くいき、元の場所へと戻ったロックオンの手には黒い箱…否、本当にボタンだった……があった。
「それ……何?」
「さぁな。俺もさっき見つけたから分からん」
首をかしげるフェルトに、肩をすくめてみせる。一目見ただけで何だか把握できる人間はいない。判断要因があってこそ、である。しかしそれ無い以上はどうしようもない。
とにかく、これが『何かのボタン』であるということは判断が付く。だが…それだけである。行動の起こしようがない。
「ま、どういう物だか分からない以上、これは預かっとこうか」
「大切な物っていう、可能性もあるし」
「逆に不必要な場合もあるがな……」
そうだった時、待っているのは軽い虚しさだが、それは置いておいて。
ボタンの付いている箱を両手で弄びながら、これは『落とし物』として届けるべきだろうかと、ロックオンはそこを悩んでいた。こんな物、明らかに『普通』ではないだろう。こんなボタンが必要になる機会が、日常生活でどれほどあるのか。電灯を付ける場合には使うだろうが…そのボタンはもっと違うデザインのハズである。ここまで『怪しい』ボタンは、そうそうあった物ではない。というか有ったら嫌だ。
「どーすっかな…」
持ち主を捜すという選択肢もある。だが、こんな人混みでそれは如何なる物だろう。自殺行為……とまでは行かなくても、大分、無謀な挑戦に思える。
「フェルトはどうしたらいいと思う?」
「私?私は……まずはティエリアとハレルヤと、合流するこ……あれ?」
「ん?どうかしたのか?」
「あそこにいる人……昨日のコンビニのレジの女の人だ…」
指さされた方を見れば、そこには確かに女性がいた。どうやら、何かを必死に探しているようだ。それは分かる。
……だが残念なことに、ロックオンは現場にいたワケではないのだ。人質になった四人の中の最後の一人……そんな人の顔なんて物は知りようがなかった。
が、フェルトが言うのだから間違いではないだろう。彼女の記憶力は確かな物である。
「ふぅん…珍しい偶然だな」
「それ……本気で言ってる?」
「一割くらいは」
「九割は……疑ってる?」
「まぁな」
答えながら、ロックオンは苦笑を浮かべた。
何について疑っているか、それは酷く簡単なこと。彼女もまた、昨日の騒動の『関係者』ではないかということだ。単なる『巻き込まれた一般人』ではなく、『犯人の一人』という意味の『関係者』で。
偶然、昨日の事件に巻き込まれた人が、ここで何かを探している。しかも探している場所はボタンが落ちていた辺り。妙なボタンの落ちていた辺り、である。
怪しまずして、どうしろというのだろう。
二人に見られていると気づいていない様子の彼女は溜息を吐き、くるりと踵を返した。それから、しっかりとした目的地があるらしく、迷いのない歩みでどこかへ向かう。
「どうする?」
「後を付ける」
「……だね」
さてさて、何が出てくるだろうな?
…なんか、行動がCBっぽい。
いや、二人ともCBだけど。