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灰の山が二つになるのを眺めながら、消えた二つの命に対して何も感じないことに、僅かばかりの呆れを覚える。だが、今回は確実に彼らが悪い。客だった方には少しくらいなら同情出来るかも知れない。が、あの男の方にはそれさえも無理だ。おそらく…約束を守らせるために毎夜、彼からの暴力を耐えてきた子供にとって、あれは何よりも酷い裏切りだったに違いないのだから。
前の主が消えたこの瞬間、屋敷の主となった子供が声が出るようになったのだろう……黒衣長髪の子供に、声を掛けた。それがスイッチとも知らず。
彼の声にハッと我に返った子供は、自らの行ったことを明確に把握してしまったらしい。ぺたりとへたり込み、下を向いて頭を抱えて震えだした。瞳に宿っているのは恐怖。ただそれだけ。
何度も繰り返される『ごめんなさい』を耳にして、この世界で目を覚ます以前に聞こえた声を思い出した。あれは今、このときの音だった。
「ティエリアね……あの時僕に声を掛けちゃいけなかったって、ちょっと落ち込んでたんですよ。もっと気持ちとかを汲み取って、適切な対処ができればって」
「子供にゃ無理な話だろ?ま、この人身売買の事は数日前には知ってたらしいが…当日まで何も出来なかったって悔しがってたぜ。だから、子供だったんだしどうしようもねぇっての…」
「それほどの事だったんだろうな…」
呟いて、双子の方を見る。
案の定だろう…アレルヤは見るからに無理をしていて、そんな片割れをハレルヤは支えていた。支えが無くなったら、あの子供のようにへたり込んでいたかもしれない。
とにもかくにも、これで過去の旅、見たくない記憶の復習は終わりだろう。ならば、早く帰って皆と……帰って?
少し嫌な予感。
「なぁ……今更ながらに聞くが……帰り方とかは」
「…………………あ」
「…あ、だと?お前まさか…」
「だっ……大丈夫だよ……多分…」
絶対に大丈夫じゃなかった。というよりも、今の今までそのことに考えが及んでいなかったように見える。こんな過去を見るという気負いがあったろうから、それは仕方のない事なのだろうが。
対策を考える必要があるが、別にそれはここでなくてもいいだろう。果ての見えない廊下で座って、でも構わないと思う。少なくともここでは冷静に話すのも難しいに違いなかった。ここから離れて、少しでも冷静になって。
「んじゃ廊下に戻るか」
「ですね……っ!?」
驚いたように固まったアレルヤの視線を追ってみると、そこにあったのは黒い断層。
「……って、え!?」
「急いで扉に!多分、あれに落ちたら戻れません!」
「分かった!」
と言うものの、断層の広がるスピードは速く、双子がくぐった後で自分が扉にいけるかというのは……わりと五分五分の可能性。決して遠くない、むしろ近すぎる扉なのにそんな状態。つまりはそれほど断層は広がりが速かった。
ハレルヤが廊下に戻ったのを見、自分も行こうとした丁度その時、裂け目が足下に至った。体を落ちる感覚が支配する。
(何でこんなに広がるのが速いんだよッ!?)
心の中で叫んで、そして……
「ニール、手!」
呼ぶ声に、反射的に手を差し出し、その手を握られたのを感じる。
そして……自分の知らないところで、とある鍵が一つ、外れた。