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この二人は何だか書いてると楽しいです。
ユニオンsの話。上級大尉殿と技術顧問兼保護者さん。
08.空約束
「……で?」
瞳を閉じて顔を引きつらせているカタギリの背後には、よくもまぁ本部まで帰って来れた……という状態のカスタムフラッグがあった。パイロットは当然、目の前にいるまだ着替えてもいない彼だが。
「どうしてこんな状態になってるのかな?」
「帰ってきたのだから良いだろう」
「…良くないから言ってるんだよ?」
あぁ、このやり取りは一体、何回目になるのだろうか?
グラハムに『フラッグは大切に(たとえガンダムに会っても)』という約束を取り付けたのは良い物の……依然として守られる気配がない。常時は問題ないのだが、如何せん、ガンダムが現れるとそうはいかない。あの機体たちに恋をしていると言っても過言ではない上級大尉殿のこと、彼らを目にした瞬間に自分と交わした約束の存在は、遠い遠い場所へと去っているだろう。
果たしてどうしたら、こういう状況から脱出できるのだろう?彼がフラッグを軽く見ているワケではないことくらいは知っているが……むしろ大好きなのは知っているが……本当、これはどうにかして欲しい。
「グラハム、僕らの仕事を増やして楽しいかい?」
「失敬な。私はそのようなことをして楽しむ、そんな無粋な輩ではない」
「じゃあさ…その言葉を態度や行動で示して欲しいんだけど」
「というと?」
心底疑問に思っている様子のグラハム。
はぁ、と溜息を吐いてカタギリは口を開いた。
「もっとね、フラッグを綺麗な状態で持って帰って欲しいんだよ。君なら出来るだろう?いつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつも無理という名の無茶ををしている君だけど、少しくらい自重って物を持ってくれればこっちとしても楽なんだよ。体力がじゃなくて精神の方がね。もちろん、機体の傷の程度が低い日もあるよ?けどあくまで『程度が低い』であって、決して『全く傷がない』じゃないんだからね。いや、戦場に出ているのだから、それが不可能なことくらい分かってるけど」
「カ……カタギリ?」
「だいたい君は、ガンダムの事になるとあまりに周りが見えなさすぎるんだよ。それに振り回される僕や教授、君の部下たちの心労を君はもう少し考えてくれて良いと思うんだよね。僕は慣れてるから良いけど、教授は結構な歳だし、ハワードやダリルたちは君をとことん尊敬しているから、きっとどんな場所にも付いていくよ?そこは上司として色々と考えてあげないと。それに……」
「分かった!次から気をつける!」
どこか慌てたように叫ぶグラハムを見て、軽く首をかしげる。何か彼が慌てるような事があったのだろうか……思い返してみるが、記憶の中に該当する箇所はない。
けれど、そんなグラハムを前にしてなお、カタギリは口を閉ざそうとは思わなかった。むしろ彼の今の言葉に物申したい気分だ。
だから。
「次?……君、今『次』って言った?」
「あ…あぁ、そうだ……が」
ニコリと微笑んで見せると、言いたいことは伝わったらしい。
冷や汗らしい物をかき始めたグラハムの肩に手を置き、カタギリはスッとレンズ越しに彼の目を見据える。
「次って言って、君が守ってくれた時ってあったっけ?努力をしているのは何となく分かるんだよ?けれどやっぱり君の中でガンダムの存在は大きすぎるから、目にした瞬間にでもまた忘れてるんだろうね。いや、忘れると言うよりも、より優先順位が上の物の出現によって押し込められるという方が正しいのかな?どっちにしろ守られないんだし別に変わらないけど。ていうか今回だって前回の『次』じゃないか。君が子供みたいに無邪気でいるのはよーく分かってるけど、けれど限度っていうものが、」
「すまないカタギリ!お詫びにドーナッツをおごるからッ!だから許してくれ!」
「…ドーナッツ?」
その言葉に一旦言葉を止め、顎に手を当てて思案する。
……それなら、まぁ、許してあげてもいいか。
そう思い、カタギリはさっそく買ってきて欲しい物をグラハムに伝え始めた。
そして数日後。
やっぱりフラッグは傷だらけの状況で帰ってきたとさ。
「全く……君って人は」
「仕方あるまい。何せ相手はガンダムだからな」
「…………反省してくれないかな?」