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落ちかけるロックオンの体をハレルヤと二人がかりで引き上げ、彼を廊下に引き出してから扉を勢いよく閉める。ドアノブに触れて、開かないようにと細工を施して。
それでも扉と床の間から伸びる黒いモノを認め、すっと目を細めた。反省したからしばらくは使わないでおこうかと思ったが、そうもいかないらしい。
扉に触れて、その先の情景に意識を伸ばす。部屋一杯に広がりきった黒を感じて、それを抑えるようにと『書き換え』を行った。黒い断層は無い、という『書き換え』。本日五回目の行使。規模の事もあり、今回の力の行使で自分はおそらく『限界』だろう。
…そして、黒が消えたのを見て安堵の息を漏らし……。
激しい痛みが襲ってきた。
「うぁっ……う……」
「アレルヤ!?」
あまりに苦痛に崩れ落ちかけ、すんでの所で片割れに支えられる。けれど、ありがとうとさえ伝えられない。そんな余裕はどこにもなかった。
今自分を支配しているのは、ただただ焼け付くような痛みのみ。気を抜けば意識なんてあっと言う間に飛ぶような痛み。これが、体に負担を掛けすぎた結果。下手をすれば死の誘いが自分を連れ去っていく結果だ。けれど……それだけは嫌だった。まだ、皆とやりたいことはたくさんあるから。我が侭であろうと…罪深い願いだろうが…それが本心だ。
脂汗を浮かべる自分を、片割れはできるだけ優しく壁にもたれかけさせた。うっすらと開く目で、心配そうな顔を見る。申し訳ない気持ちで一杯になったが、そんな感情も痛みに塗り潰される。
「茶髪。今はお前の力がいる。だから貸せ」
「こんな時にもそういう言い方か…いや、いいけど……で?俺は何をすればいい?」
「アレルヤにテメェの血を飲ませろ」
「…なるほどな……了解だ」
片割れの言葉の理由を正しく理解したのだろう、彼は頷いて自分の方へと来た。
しゃがんだ彼は服の首元をぐいと開いて、自分の頭を持って、口をそこへと近づけてくれた。実際は腕でも問題はないのだが、新鮮な血の方がこういう場合は効果がある。だからそこで良かったのだが…そんなことを考える余裕など無く、アレルヤはずぷりとロックオンの首筋に牙を立てていた。
血が喉を通っていく度に、少しずつ痛みが引いていくのを感じた。変わりに感じるのは暖かな何か。
そして、牙を離したとき痛みはすっかり引いていた。
……変わりに、ロックオンが貧血になってしまったようだったけど…。
「って、ロックオン!?ごめんなさい、加減できなくて…ッ」
「気にしなさんな……」
「別に良いだろ、コイツだし」
ふらふらしているロックオンの背を軽く蹴ったハレルヤを咎めるように睨んで、ぎゅうっと狩人を抱きしめた。
「本当にごめんなさい……こういう時は、人の血で中和するしか無いんです……」
「あー、魔王の血、だったっけ……」
「はい……」
魔王。魔族の王。それは魔族を庇護する存在……だけれど今、そんな物は存在しない。
何故なら、魔王の血は、『力』は…二つに分かれてしまったから。分かれた以上は『魔王』とは言い難い。
強大な力が中途半端に分かれた結果、魔王としての『力』は使えるが、体がそれに適した物ではなく、『力』を使いすぎれば血に呑まれる…という危険性を孕むことになった。
魔王の血は、異端の血が変化して現れる。なのだが……どうやら自分たち双子は、異端の血が、魔王の血が目覚めても少量残っていたらしい。理由は何となく分かっているが……ともかく、そのお陰で呑まれることもなくこうしているわけだが。
今では、人の血を取り込める吸血鬼で、人の血も入っていて良かった…と思っている。魔王の血は人間の血に弱い、というのをティエリアが発見したことも。
見つけた、といったときの彼の嬉しそうな顔を思い出して、笑みが浮かんできた。