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玄関先に唐突に新しい気配が現れたのを感じ、ソーマはついと視線を向けた。
といっても木製の立派な扉に阻まれ、誰が居るのかは見えない。まぁ、よく知っている気配だったから、おおよその見当は付くのだが。
森にいたメンバーは、全員ティエリアの屋敷に戻っていた。終わった以上はあの場所に用はない。死体の山の処理という課題があったが、それは今すぐ出来ることでもない。対応の方向性が決まるまでは、しばらく放置することになるのだろう。あんな所に誰かが寄りつくとも思えないが……いたとしたら憐れだ。何の心構えも為しにアレを見るのはさすがにキツイものがあるだろう。
そして帰ってこない三人を、ソーマはティエリアと、未だにフラフラ気味の刹那と共にエントランスで待っていたのだった。三兄弟は部屋にいる。刹那の能力によって、未だに元気のない兄たちを末っ子が世話している状態だ。逃亡者二人組はスメラギの所から回収して、三兄弟とは別の部屋に入ってもらっている。フェルトはイアンの家に戻った。
ギィ、と音を立てながら扉が開くのを、ソーマは何気なしに見ていた。誰だというのは容易に想像が付いていたから、それほど気にはしていなかったのだ。
だが……入ってきた彼らを見て、ソーマは固まった。
一人目は良い。ロックオン・ストラトス。彼は普通に入ってきた。が、二人目三人目が問題だった。心構えもなく思いがけない物を見る……先も思った通り、なかなか衝撃的だった。
誰が想像するだろうか……アレルヤが、ハレルヤに横抱き(俗に言うお姫様だっこ)されている光景なんて。あの、恥ずかしがり屋のアレルヤが。
だが、よくよく見てみれば、抱かれている彼の表情は何とも言えない物だ。安堵の入っている困ったような笑み。今この状況でどんな表情をするべきかというのが……あまり分かっていない様な顔だった。
「…ねぇ、ハレルヤ。いい加減下ろしてくれるかな……」
「何で?いいじゃねぇか別に」
「良いわけがないだろう、ハレルヤ・ハプティズム」
いつの間にか三人の傍に歩み寄っていたのだろう。
ティエリアはそう言うやいなや、ハレルヤの顎にアッパーを食らわせた。
鈍い音が響く。
「…ってぇ!?テメェ、何しやがる!」
「黙れ。むしろ俺が『何をしている』と言いたい気分だ」
「えっとね…僕、ちょっと体に力が入らなくて……」
「背負えばいいだろう?何故その運び方を選んだ?」
静かな質問だったが、微かに孕んでいるのは殺気……だろうか。受け答えの一つでも、しっかりと考えて発言しなければハレルヤの命はないかも知れない。魔族にとってのティエリアは……異端にとっての刹那と同様。完璧な魔を持っていないとはいえ、彼が本気を出せばある程度の影響は受けるだろう。いや…出されて一番困るのは、外野にいるソーマ自身かも知れない。もしかしたらこちらにも効果が出るかもしれないので。
「……今日がハレルヤの命日か」
「ですね。じゃあ、今日は盛大にお祝いしましょう。お邪魔虫が一人消えます」
「お前らさ……言いたいことは分かるが、それはどうだ…?」
避難してきたのだろう。階段に座るソーマの真横に立っていたロックオンが、苦笑しながら自分たちを見た。が、その瞳の中にそれほど咎める色が無いのを認め、ソーマはスッと目を細める。つまり、彼も自分たちと同じ気持ちかも知れない、と言うこと。
好意がさらに上の段階へ行ったのか?……そう考えながら、しかしそう思っていることを悟らせないように、普段と変わらない声色で話を続ける。
「メニューは何にしますか?今日くらいは私も手伝おうと思いますが」
「とにかく豪華な物だな。素晴らしい事が起こった日だ」
「ホントにお前ら止めてやれよ……」