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———どうしてお前は意見を変えた?守りたいとでも思った?
嘲笑が聞こえる。
———無理に決まってるよな?だってお前、
耳を塞いでも響く声。
———今まで何も守れたこと無いじゃないか。
一人きりになった自室で透明な結晶を手のひらで転がす。
コレを見た後、一体自分はどんな反応をするのだろうか。
無駄なことを考えていると苦笑する。そんなのは分からないし、分かったところで自分がこれから行うことが変わるわけでもない。
指先でつまんだ結晶は、軽く力を込めるだけで容易に砕けた。
「………ったく」
夢見が悪かったせいで目が覚めてしまった。
ゆっくりと起き上がり、冷や汗でぐっしょりと濡れた衣類に眉をひそめる。
最悪だな…そう思いながら、窓ごしの空を見る。
「…胸くそ悪ぃモン見せやがって……」
まだ。まだだった。
知りたいと思ったこと、疑問に思ったこと全てに対する答えは与えられていない。
ならばどうすればいいか?……簡単な話だ。
答えを探せばいい。この手で、解答を導き出せばいいのだ。
この場所に滞在する限り、その機会はいくらでもあるのだから。
頭の中で続いていた彼の記憶の再生が終わり、静かに息を吐く。
「貴方は……昔から変わっていないのですね…」
自己より他。それは幼い頃からずっと変わっていない思考。
ただ……そんな彼が、どうして『殺す』という他者を傷つける行為を行えるのだろう?
見せられていない過去…この屋敷に来る前の彼、そこに理由があるのだろうか?
体がだるい。力が上手く入らない。
久しぶりすぎる『力』の解放だったから、だろうか。
低下した体力を回復するために睡眠を取ろうとは思うが、一向に睡魔は襲ってこない。
先ほど見た記憶の内容もまた、それの原因となっているのだろうが。
一番の理由は、きっとあの傭兵に再会してしまったから。
何とか自分の部屋の前まで来たが、そこで限界だった。
「っ………げほっ…」
口の中に血の味が広がる。体のあちこちは悲鳴を上げていた。
今日は『頑張りすぎた』し、それに庵から帰ってきたから感じている、これも理由か。
狂気という異物に拒否反応が起き、その上、何かがこちらに干渉を始めている。
結局彼女の声は戻っていない。こればかりは自分たちではどうしようもないと、申し訳なさそうな表情を浮かべていた彼の言葉を思い出す。彼女の声は『盗まれ』て、それを取り返す術は今はない……と。
仕方がないのだろう。手の打ちようはないのだろう。
だからこそ……悲しかった。
そんな各々の夜は過ぎ。
世の理に従い、朝は訪れた。
そして……
「こちらに寄るのは久しいな…我が親愛なる兄弟たちは元気にしているだろうか?」
「それ……あの二人に聞かれたらと思うと怖くなるから止めてくれないかい?」
「何を言う。我々は短からぬ時間、寝食を共にした仲だぞ?」
「それでもだよ。僕は血の雨は見たくないんだから、ほどほどに自重してくれよ?」
「むぅ……まぁ、善処はしよう」
「何とも心許ない返事だね…」
新たな役者が舞台に上がる。