[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
遊園地に着いて、一番最初に乗るのは。
チビスターズ第五話 ③
無駄に長い列で順番を待ち、ようやく入った遊園地。
どうやら観覧車は一番最後のイベントに位置づけられてしまったらしく、それが少々口惜しいとは思ったがミッションプランならば仕方がない。諦めて、素直にその時が来るまで待つだけである。
そして、記念すべき一番最初の乗り物は……メリーゴーランド、だった。
「ティエリア、お前乗ってく…」
「謹んで辞退します。土下座されても遠慮させていただきます」
「そこまで嫌か。似合うと思うんだが……んじゃ、ハレルヤは」
「はぁ!?何で俺が乗らねぇといけねぇんだよ」
「……お前ら、楽しむ気有る?」
などと言っているロックオンもまた、見学組なのだが。まぁ……この中では最年長の彼がメリーゴーランドに乗る姿なんてもの、あまり見たいとは思えなかった。似合わなくはないと思うが。
いっそのこと、嫌がらせとして強制的に乗せてみれば良かっただろうか?
少し前、何もしなかった自分の行動を悔やみ、それからすっと瞳を細めた。
理由は簡単。ロックオンが端末を取り出したからだ。モードはカメラの状態である。
「ロックオン・ストラトス……それは?」
「ん?ああ、折角だし写真でも撮ろうかと」
狙いを定めるその先には、楽しそうな縮んだ二人及び最年少クルー。
……完璧に、日曜のお父さん状態だった。
「全く……」
「ん?どうかしたのか?」
「いえ。呆れているだけです」
いつもと同じように言い放つ。そうすれば彼は苦笑し、とんとんと少しばかしの会話が続く。それがパターンだった。
が、今回ばかりは違ったらしい。
にまり、という笑みに一瞬たじろぐ。
いいのか、お前ら?―――それはそういう笑みだった。
それを知ると同時に彼の言葉から、ハレルヤも似たような表情を浮かべていたと推測する。おそらくあっているだろう。今となっては確認のしようはないが。彼の表情も自分同様、変わっていることだろうから。
「……んだよ」
「お前らさ、写真いらないんだな?」
「…………何の?」
「アレルヤの」
言われ、ティエリアは何も言い返せなかった。
欲しい。ハッキリ言ってしまうと、物凄く欲しい。刹那のだとかフェルトのだとか、そういうのはいらないが。
はぐれるなどという愚行は冒さない自負があったため、端末は持ってきていない。一人が持っていれば事足りるのに、どうして余計な荷物を増やす事をするだろうか?だが……それが裏目に出た。つまり、自分には映像保存用の道具が何もないのだ。
何と言うことだ……唇を噛む。失態を犯してしまった。しかも致命的な。
これでは、遊園地にいる間中……下手にロックオンをいじれない。半ばそれを楽しみにしていたというのに、これではプランを変更しなければならない。
「くっくっく……」
落ち込んでいたティエリアの耳に、押し殺した笑い声が届いた。
誰の物か。言うまでもない……そう、ハレルヤの。
「はははははッ!甘い!甘いな、ロリコン・ストラトスッ!」
「なっ……俺はロリコンなんて名前じゃねぇぞ!?」
「うるせぇな。テメェなんざロリコンで十分だ。改名しろ」
「んな無茶なっ!?」
「……で?何が『甘い』んだ?」
いつまでも続きそうな言葉の応酬に割り込み、ティエリアはハレルヤに尋ねた。何となく想像は付いているものの。もしそれがあっていれば…いや、状況は変わらないか。
「そうだった…いいかロリコン、テメェだけがそーいうモンを持ってきてると思うなよ」
「ってことは…まさかお前も……」
「そこの眼鏡と一緒にすんなよ」
そう言うハレルヤの手には案の定、ロックオンの物と同じ端末があった。
「つまり、持ってきてねぇのはテメェだけなんだよ、このドS眼鏡!」
「………………っ」
「ティ…ティエリア?」
「あぁ………何という失態だ………………俺は僕は私はーっ」
「落ち着けティエリア!ショックのあまりに壊れるなッ!」
「ハッ…ご愁傷様だなァ!」
「ハレルヤも追い打ちかけんな!」
ティエリアは、大切なところで抜けている気がする。