[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
143
世界は広いが世間は狭い、というのは本当だったのだと、しみじみと感じ入る。というか自分が言えた義理ではないが、狩人が人外と仲良くするな。狩人の職業内容を忘れたのか……いや、まったくもって自分が言えたことではない、本当に。
とりあえず階段に腰掛け、ギャーギャーと言い合っているハレルヤ及びグラハムを眺める。といってもハレルヤが何かを言い、それをグラハムが笑って受け流す(見当違いな返事をするとも言う)だけだが。ティエリアはカタギリと近況報告をし合っているようで、ソーマはやることがなかったのだろう、いつの間にかロックオンの隣にいた。
「一つ訊きたいんだが」
「何でしょう?」
「弟妹ってのは」
「…あぁ、貴方は知りませんでしたね。あの三人、昔は孤児院にいたのですが、その時に一緒に生活していた人の内に彼ら二人がいたのです」
「あー、そういやそんな話があったような……」
ソーマは任命されたとか話していたので除外するとして、なるほど、そういうことなら『弟妹』と称されても不思議ではない。同じ場所に住んで、寝食を長いこと共にすれば、確かにそれは兄弟……家族と呼んでもおかしくな関係だ。
ハレルヤとティエリアが「兄弟じゃない」と力一杯、物凄い勢いで反論していたが、おそらくは『家族』と認めているのだろう。そうでなければ、この対応はないと思えた。両者ともに興味のない、あるいは必要がない相手とはとことん付き合わないタイプだ。ここにはいないがアレルヤならば別だろうが。
「そういえば、グラハムの気配を消すという特技に対抗すべく、ハレルヤは気配を読む技能を磨いたのだと聞きました」
「へぇ……けど、どうせ無理だったんだろ?さっきの様子見てると、事前に気づけたってワケでもなさそうだしな……てか、出来るヤツがいたら凄いっていうか」
「いますよ、出来るヒト」
さらりと言われた言葉に、思考が付いていくまで数秒。
え?と視線で問いかければ、彼女は金髪の狩人の方を見ていた。
「あくまでグラハム限定ですが、一定の範囲内に彼が入るとほぼ無意識の領域で反応をするヒトが約一名ほど」
「それって……」
誰なんだ、という必要はなかった。
何故なら、答えの方から走って現れてくれたからである。
たたたっ、という足音に振り返ってみれば、ボロボロの黒いロングコート、床に付きそうなほどの黒い長髪(前髪含む)、雪のように白い肌、血のごとく紅い瞳が特徴的な『子供』が、それこそ神速というべきであろう速さで駆けてきていた。
そのまま脇をすり抜けた彼は、そのままの勢いでグラハムに抱きついた。飛び上がって相手の首に両腕を回して、である。
「お帰り、グラハム!」
「アレルヤか。相変わらず元気そうで何よりだ」
「……ってアレルヤ!そんな金髪変態から離れろ!何されるか分からねぇぞ!?」
まるで太陽のような笑みを浮かべているアレルヤを引き離そうとハレルヤが奮闘するのだが、なかなか彼の腕はグラハムの首から離れない。横ではティエリアが呆れ、カタギリが笑っていた。
そんな様子を呆然と見ていると、ソーマは嘆息とも言い難い息を吐いた。
「グラハムを『甘えられる対象』と見ているのでしょう…実際その通りですが……ですから、自然と察知するとあぁなってしまい、そのままの状態で会いに出るのです」
「凄い懐いてんだな……それよりも、アイツは魔王とかそういう関連の話は」
「知っています。何と言ってもあの二人は『身内』なのですから」
なるほど、と五人の方に意識を戻し、一つだけ目に止まる物があった。
黒いロングコートが、初めて見たときよりもボロボロになっているような、そんな感じがしたのだが……気のせい、なのかもしれない。