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きゃっきゃとはしゃいでいる二人と、その二人を引き離そうとしている大人げないのを放置することとして、ティエリアはカタギリに付いてくるよう促した。どうせこの調子だと朝食はまだだろうから、余り物でも出せばいい。彼らは客ではなく身内なのだし(だからといって弟妹というのはどうかと思うのだが)、無駄な気遣いは必要ない。邪魔だ、と言っても過言でないだろう。見せたくない身内は少しの間はこちらにいるから問題ない。今のところ。
「いいのかい?放っておいて」
「付いてきているくせに…何を言っている。どうせならお前は残るか?」
「冗談だよ。僕だって巻き込まれるのはごめんだからね」
ちらりと視線をやれば、たしかに巻き込まれるのは遠慮したい事態になっていた。
つまり、アレルヤ(子供型バージョン)が少し離れた場所に立ち、ハレルヤとグラハムがじゃれ合い(という名の取っ組み合い)をしていた、というわけである。あれに巻き込まれると色々と痛い目にあうので、一回だけ不覚を取ってしまってからというもの、ティエリアはあぁなったら離れようと心に決めていた。近くにいるだけで引き込まれる。
そして、自分などよりグラハムの傍にいることが多いカタギリのことだ。危険性はより熟知していることだろう。後で、以前よりどれほど危険性が増したかを訊いておくのもいいかもしれない。情報は多いに越したことはないのだから。
階段の所に座っていた二人に行くぞ、とすれ違いざまに声を掛ける。気にすることは無いかも知れないが……ここにいては彼らも危ない。一応は警告してやるべきだろう。
ちなみに二番目に危険な場所にいるアレルヤだが、彼を無理に巻き込むことは両者とも無いはずなので、置いていってもそれほどの問題は起きない。
「やぁ、ロックオン。元気そうだね」
「元気だったさ……アイツの顔を見るまではな…」
「…ロックオン、貴方はグラハムに何かされたのですか?」
何となくだろうが危険は感じ取ったのだろう、ロックオンもソーマも素直に付いてきた。そして、これだけ人数がいて、さらには知り合っている相手がいるとなれば、自然と話も始まるという物。
だからといって、ティエリアはそれに加わる気はなかった。こういうのは端で聞いていて、たまに気になる内容が出れば首を突っ込む…その程度で良い。何より、これからあの二人の対応をどうするべきかと考えなければならかった。
別にカタギリの方は問題ない。自由にさせていても困ったことは起きないだろう。
だが……グラハムは違う。彼を野放しにしてはいけない。基本的に善人だから良いとするが、彼の迷言の数々は一般人を混乱させる恐れがある。あんな身内を他人に見せたくないし。それに、手を打たなければハレルヤが毎日彼に突っかかっていくだろう。勝てないのが悔しいらしいから。
馬鹿なことを…と思う。これから先はともかく、今は勝てることなど無いだろうに。自分たちに武術を教えたのはどこの誰だと思っているのだろう?師匠とも呼べるであろう彼を越す日は、かなり遠い。だいたい、ティエリアを倒すことが出来ないのにグラハムを、というのが無茶なのだ。
「グラハムな……勝手に人のあだ名を決めてくるからな…あと、突拍子なさすぎて付いていけないっていうか………」
「だろうねぇ。それでこそグラハムだから」
「そういえば、刹那は彼に『少年』、としか呼ばれたことがないですね」
これもあだ名でしょうか?と首をかしげるソーマは知らない。
その呼び方は妥協案であり、本当は『私の運命の人』とかいう呼ばれ方だったということを……。
あの時は修羅場だったと思い返す。赤い糸がどうとか言い出したグラハムに耐えられなかった刹那が、キッチンから包丁を持ち出すという事態にまで発展したのだ。アレルヤが刹那を後ろから抱きしめて止め、カタギリがグラハムに口を閉じるようにと言って、ようやく事は収まり…何故か妥協案で『少年』という呼び名になったとかいう。
あの時、ソーマとハレルヤは庭で決闘をしていたのだった。気にくわないことがあったとか何とかで。日常茶飯事だから止めなかったが。
そういえば自分たちにはあだ名が無いな…と思い、苦笑した。
答えは既に聞いている。身内はあだ名でなく、名前で呼ぶ物なのだという理由を。