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王の庵の過去編。1よりも以前、刹那が町に来る丁度前の話くらい。
「王の庵って何?」とか思う人は、1から読んでいった方が良いかも…元となる知識がないと分かりづらいです。多分。
そうとう暗いのでお気をつけ下さい。
非常に危険です。血とかグロイのとかシリアスっぽいのとかがダメな人は即リターン。
今回は本当、色々とやりすぎた感がある。
03.現実
……目覚めは最悪だった。
冷や汗でだろう、濡れている体は何だか気持ち悪い。気分が優れない分だけ、それはさらに顕著なモノとして身に降りかかってくる。
仰向けのまま天井を眺め、瞳を閉じながら手のひらを額に当てる。
ほんの少し荒い息を収めるように深呼吸をし、大丈夫だと何度も繰り返す……何度も、何度も。そうしないと、収まらない。
ようやく落ち着いてきた頃、額の手はそのままに、ゆっくりと瞳を開いた。
見えるのは見慣れた天井。
決して……血濡れの壁ではない。
その事実にホッと息を吐いて、体を起こした。
薄く開いている窓から差し込むのは暖かな光で、吹き込んでくる風はカーテンを軽く揺らしている。暗すぎるほど暗い場所でもないし、窓一つ無い場所ではない。
見渡してみれば少ないが、私物の数々が瞳に映る。そんな物がなかったあの場所ではないし、何でもない物しかなかったあの場所でもない。
そう、あの場所では……
唯、それを思い出しただけだというのに、一瞬で体の震えが蘇ってきた。
大丈夫、大丈夫だと己に言い聞かせるように呟きながら、ギュッと自分の体を掻き抱く。ここが、あの悪い夢の中ではなく、確かな実体を伴った現実の中なのだと自らに知らしめるために。
そうでもしなければ、過去に、押しつぶされてしまいそうだった。
誰かの声が響くけれど、きっと気のせい。
誰かの顔が浮かぶけど、きっと気のせい。
誰かの血のことだって、きっと気のせい。
気のせいだ。気のせいに決まっていて、何故ならここには一人しかいない。
止めろという声だとか、恐怖に引きつった顔だとか、そんなものは聞こえるはずもないし、見えるはずもない。一人なのに、どうやって他人のソレを感じ取れるだろう?
だけど、実感として認めてしまっている。
頬に感じる生暖かい液体の感覚、いつの間にか充満している鉄の臭い、紅によって少し重くなった衣類、ぬめりとしている足元、鮮やかに紅に染まった白いシーツ、床に広がる血の海、壁に幾つもある紅い手形、手首から向こうのない手、骨の見える腕、爪が一枚もない足、切り裂かれた腹、そこから出ている幾つも幾つも幾つもの内臓、それから取り出されて切り刻まれた心臓、散らばった髪、かち割れた頭、そこから見える脳みそ、開かれた口、閉じない瞳、そして、
じぃ、とこちらを見つめる、濁った瞳。
「ひっ……」
思わず布団を抱きしめるが、その感触に違和感を覚える。
恐る恐る見直すと、そこにあったのは。
布団の切れ目から見える、幾つもの人体のパーツ。
慌ててそれをベッドから落とそうとするが、それは叶わなかった。
切れ目から殺到した手は再び自分をベッドに縫いつけ、手首を押さえ、足首を押さえ、胴を抑え……首を締めた。
「ぁ……」
息が苦しい。
十分な酸素を求めて喘ぐが、その度その度に手の力は強くなり、少しずつ、自由が失われていくのを感じる。
その間にも次々に裂け目からパーツは現れ、足が、腕が、胴が、内臓が、ついには頭までもが出、ベッドから転がり落ちていく。
最後の一つが出たとき、ようやく、首を絞めていた手が離れて落ちた。
手首、足、胴を抑えていた手もそれに倣うように、ぽとり、ぴちゃん、そんな音を立てながら落ちていく。床の、あの海の存在を誇示するかのように。
「けほっ……はぁっ………っは……」
起き上がり、生存本能から息を整えるための呼吸を繰り返す。
その間中ずっと瞼は下ろされていた。
見たく、なかった。
何も見たくない。この先に広がっている光景は何も。
怖い。
嫌だ……怖いんだ。見るのが怖い、聞くのが怖い、知るのが怖い、認めるのが怖い、感じるのが怖い、怖い、怖い、怖い。
だから見たくない。
なのに、瞳は、まるで自分の物ではないかのように開かれ。
映ったのは。
カパリと口を開き、こちらを死者特有の目で見つめている、いくつもの顔。
『お前のせいでお前のせいでお前のせいでお前のせいでお前のせいでお前のせいで……憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎いにくいにくいにくいにくいにくいにくいにくいにクいにくいにくイニクイニクイニクイ―――』
声のでないはずの喉から押し出される、悪意の固まりである言葉。
聞くことすら忌避されるその言葉たちに、耳を塞ぐ。
…止めて、そんな事までしていない。
切り刻んだりなんてしてない。
内蔵なんて触ってもない
そんなことは、何も、何も、何も……
そこまで思い、いつの間にか声が止まっていることに気付く。
だから、つい、耳から手を離して、
また、声を聞いた。
『ヒトゴロシ!』
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさ、」
「アレルヤッ!」
いつまで経っても起きてこないアレルヤを不審に思ってやって来てみれば……そこにいたのはベッドの上で体を縮めて頭を抱え、震えている片割れの姿だった。
強い調子で彼の名を呼び、力を込めて揺さぶると、ようやく我に返ったのだろう。呆然とした様子でこちらを見上げ、これまた夢見心地のように呟いた。
「はれ、るや…」
「……また、ユメでも見たのかよ」
ギュッと抱きしめながら訊けば、怖ず怖ずと、だが腕が背中に回される。
「怖かったのか?」
「うん……こわかった…よ」
「そうか…もう、大丈夫だからな」
俺が居るから。
そう続けると、片割れは安心したように微笑んだ。
目尻から落ちる涙を舐め取ってやって、少しだけ体を離せば、片割れは不安そうな顔をする。……よっぽど怖かったらしい。
どんなユメを見ているのかは分からないが、アレルヤの精神を蝕む類の物であるのは事実だろう。そうでなければ、片割れがここまで怖がる理由がないから。
よしよしと頭を撫でて、今度こそ本当に体を離す。
「あ…」
「大丈夫だって。俺は消えねぇよ……それより準備しろ」
「え……?」
ようやくこちらに、現実に戻りかけているアレルヤを見て、ハレルヤはニッと笑った。
「なんかな、ここの近くの森に変な集団がいるんだよ。んで、護送されて……いや、『宅配』されてんのが小せぇガキ。……どうする?助けにでも行くか?」
別にハレルヤ自身、その子供がどうなっても良いのだが……知りながらも無視するのは些か、気分が悪い。その相手が自分たちよりも幼いと知ってしまえば尚更のこと。ティエリアがヴェーダを使って調べたのだから、そこは間違いない。
それに何より、これが気分転換になってくれたら……と思う。
今のところアレルヤのユメに対する策は無い。過去を乗り越えてもらわなければどうしようもなく、自分たちではなく片割れがどうにかするしかない問題だ。
「……いく」
そして、アレルヤの返事にハレルヤは満足し、彼の腕を掴んで部屋を出た。
少しでも片割れがユメから逃れ、現実で安息を得られればと思いながら。
……ごめんなさい。
えっと、最初の方の有り得なさそうな描写はユメです、悪夢(ユメ)です。
やっぱり、いろんな事を考えてしまうんじゃないかなぁ、と。
というか、本編を読んでいない人からしたら本気でネタバレだ。