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夜は深まり深夜となる頃。
一つの影が都の空を、屋根から屋根へと駆けていた。
とん、とん、とん
とん、とん、と…
そして唐突に音は止む。
それは気まぐれか、あるいは進む先に別の影があったからだろうか。
とにもかくにも、駆けていた音の主は目の前にいる相手に向かって微笑んだ。
「久しぶり」
「数年ぶりですもの。当然ですわ」
影は二つで一つを形作っており、一つが一つの腕から降りて優雅に礼をする。
一つを抱いていた影はすっと当たり前の様に後ろに下がり、それこそ本当に影のような態度で佇む。それは既に習慣となっているのだろう。
それが分かったのか、駆けていた者……アレルヤは、クスリと笑った。
「紅龍は相変わらずだね」
「私の従者ですもの、これで当然ですわ」
「当然と言い切るんだ…まぁ、良いんだけど」
「…時にアレルヤ、」
対話していた影…留美が、軽く首をかしげる。
視線の先にはアレルヤの顔があった。
「一気に歳を取りまして?雰囲気が大人っぽくなっていますけど」
「そういう留美だって一緒じゃないか。人のことは言えないよ」
「それもそうかしら。で?残りの二人は?」
残りの二人とは、当然ながらティエリアとハレルヤのことである。
アレルヤがいる以上、二人も来るのだろうと予想してのセリフだったのだが……しかし、対峙している駆けていた者は首を振った。
「二人には内緒で来たから、今頃は眠ってると思うよ」
「あらあら、あの二人に隠し事が出来ると思っていまして?」
「いやぁ……無理だとは思うけど」
頬を軽く掻くアレルヤを見て、留美が微笑む。
それは、何かを見通しているような笑みだった。
「では、私にお願いがあるようですから訊きましょう。二人をおいてきたのには、そういう理由があるのでしょう?」
「その通りなんだよね。だって…あの二人、お願いするのが嫌いらしいし」
「どんな理由であれ、借りを作って是とする方々ではありませんもの」
アレルヤは軽く肩をすくめた。
敵わないな、と呟きながら。
「都にいる月代、その人数と顔を調べ上げて欲しい」
「……それは無茶ではありませんこと?」
「けど、君以外に頼める相手はいないから」
その言葉を受け、留美は手を顎に当てて考え込み始める。
……確かに、そういう仕事はある程度の地位とネットワークを持つ者でなければ出来ない。あと、裏側にも通じる顔だとかもいるかも知れない。
そして、留美はそれを全て持っている。
しばらく考えた末、留美はこくりと頷いた。
「分かりましたわ。出来る限りは調べましょう」
「ありがとう…助かるよ」
「それから、呼び出すときはもっと別の楽な場所にお願いいたします」
「……うん、善処する」