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気がつけば、姿が変わっていた。
ボウッと手、足、胴体、衣類を眺め、最後に髪に触れる。
しかし、当然ながら全体像は自分の目では見えない。何だか不思議な感覚だが、前の状態でも『見る』のとは違ったから、あるいは似たような状況なのかも知れなかった。
とりあえず状態を把握しようと、鏡があったはずの場所に向かうことにする。
そこへ至る道…廊下を歩いていると、そこに面した部屋の一つから色々な人の声が聞こえてきたが、気にしないことにした。人間が何を話していたとしても、自分にはあまり関係のないことだ。異端でも同様で、魔族や月代ならば何かは違うかも知れないが。
だからそのまま素通りして、物置への扉を押して開いた。
埃っぽい室内だったが、それもあまり気にせずに目的の物へと一直線で進んだ。
使うことが無いからだろう、掛けられている布を取り去って、ギリギリ自分の全体像が見える程度の鏡で、じっくりと自分を観察する。
髪の色は黒で、触ったときに分かったが…長い。軽く背中に届く程度。
服はドレスに近いかも知れない。青が基調となっている、スカートの部分がふんわりと広がっている物。襟首の辺りからスカートとの継ぎ目辺りまで、白いレースで出来た飾りが一直線に通っていた。袖は長い。
そして他の特徴は、何となく想像していた通りだった。
用は済んだ、と鏡のあった物置を後にして、思う。
この、非現実でありながら現実に起こってしまった事態について。
恐らく、『たが』が外れてしまったのだろう。何か、自分を縛るモノが解けて、結果としてこうなってしまった。実際、体には力が充ち満ちている……ような気がする。
多分……元に戻ることも可能で、その時はさらに力に満ちるのだろうと思う。
この状態を保つのには多大なエネルギーが必要なようで、そこは何となく納得できる。この人型の姿は元来のものとは全く違い、原理はどうであれ変形後の物。そして……この状態は不自然な状態。何故なら、元来の物とは『違う』のだから。変化を生み出すには、多大な代償が必要だ。
しかし、原理がどうであれ、自然がどうであれ、この状態が自分にとってありがたいものであることに代わりはない。
だから、こんなどうでも良い思考は止めてしまうことにする。
代わりに考え出すのは、さしあたっての自分の目的について。
自分の意思で動くことが出来る今、自分で歩いて皆を捜し出すことも可能だろう。一番のネックだったその点が改善されたことにより、出会える可能性は確実に増したハズだ。
今までは、いくらこちらで情報を得ても動けなかった。情報の発信も出来なかった。
完全に受け身の状態であった上に、自分と似たような特徴の物体は多くあった。それに、彼らがずっと自由であったとも考えにくいので、再会できる可能性は限りなく低い。
だが、今なら違う。今なら、自分も動くことが出来る。
果たしてこれは好機という物なのだろうかと、思いながら一つの扉の前に至った。
躊躇いもなくそこを開くと、中には驚いた表情の男性…自分の現在の持ち主がいた。
「君は……」
「クラウス、お願い。私を外に」
彼の……クラウスの言葉を遮って、一歩、部屋に足を踏み入れる。
そして、クラウスの座っている机の前まで来て、彼の顔を仰ぎ見た。
「仲間に会いたいから、外に出して」
「…君の名前は?」
「私は単なる剣だったモノ。名は……ダブルオー」
碧の目で見上げ、ダブルオーはそっと皆とお揃いのベルトに触れた。
…もしかしたら、会えるかも知れない。
七人の仲間に。
大切な半身に。
エクシアに。