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199


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「俺さ、前々から不思議に思ってたんだけど」
「ん?」
「ライルさ、どうして人間殺すんだ?」

 床に座って仕事道具……つまり、殺しに使う銃器を手入れしていると、ベッドに座って足をぶらぶらと揺らせていたケルディムが問いかけてきた。声音には、本当に不思議がっている響きがある。

「突然どうした?」
「突然じゃないって。前々から思ってたって言ったろ」
「はいはい。で、その質問の理由は何だ?」
「同族を殺すって、変じゃないかと思って」
「…そりゃ、そうだろうな」

 人間が猫を殺したって大して問題にはならない。それだと分かっていれば人間と見た目は変わらない異端でも、殺したところで人間の間では罪にはならないケースが多い。他種族ならば、ある程度は虐げることも肯定されているワケだ。

 だが、同種族だとこうはいかない。傷つければ警察が来るし、殺せば自分にも死という罰が来る可能性がある。酷く簡単な例を挙げると、犬を蹴飛ばしても飼い犬でさえなければ文句の一つもないのに、子供を蹴り飛ばしたら悪人にされる。それと同じ。

 そう言うと、ケルディムはさらに不思議さを深めたらしい。
 小さく首を傾げて、腕を組みながら唸った。

「そこまで分かってて、一体どうしてそんなことすんだよ…」
「俺、人間嫌いだから」
「え?人間嫌い?お前も人間だろ?」
「だな。だから俺も嫌いだ」

 人間は騙す。
 人間は欺く。
 人間は殺す。

 別に、それは異端だって、魔族だって、月代だって、はたまた…どれにも属さない存在だって、全くと言っていいほどに変わらない。
 そこは分かっている。が、どうしても、人間は嫌いだった。

「……俺には分かんないな。同じ種族ってことは、つまり、仲間だろ?」
「違うね。『同じ』が『仲間』とは限らない。俺が良い例だぜ」
「というと?」
「俺が『仲間』…いや、『友達』と認識したのは人間じゃないヤツ、ただ一人だからな」

 そう、彼が最初で最後の『友達』だ。
 この事実だけは、変わることはない。

 しかしまぁ、色々とあったから、以前のようにはいかないかもしれない。自分の場合、いざとなれば『あのこと』をダシにして、その『友達』を利用する可能性さえ持っているのだ。そして、そこは彼だって分かっているだろう。

 まぁ……思い出していたら、の話だが。
 『あのこと』についての記憶は、関係者全員に、綺麗に封印が為されているはずだから……自分だけを除いて。

「ふぅん…じゃ、ま、そういう人間もいるって事で」
「オイオイ、結論がそんなんで良いのか?」
「良いんだよ。うだうだ考えるの嫌だし。それより…また、殺しに行くワケか?」
「あぁ。今回の目標を殺ったら、しばらくの間はのんびり出来る」

 手入れした銃のパーツを組み立てながら、ケルディムを見ることなく、ライルは続けた。



「今回のターゲットは…マリナ・イスマイールっていう、どっかの国の皇女らしいぜ」

 

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