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「ごめんね……ワガママ言って、ソーマちゃんまで連れて行かせてもらって…」
「ま、ソイツはそうした方が良いだろーし、俺に異論はねぇ」
「そっか……あ…ライルは?」
「俺も別に。ソイツのこと知らないし判断はお前らで…てか、普通に思い出してんな…」
ソーマと言うらしい少女を担ぎながら歩くライルはそう言って、溜息を吐いた。
驚くやら、呆れるやら、である。
扉を開いた向こう側には、たしかに彼がいた。他にも四人も知らない誰かがいたが、そこは置いておこう。分かれてから早数年……自分の知らない知り合いがいてもおかしくはないし、むしろいないほうがおかしいだろう。
それよりも、問題は……自分の顔を見てすぐに逃げる場所を探していたアレルヤの反応の方が、ライルにとっては重要だった。
それは、記憶が戻っていると態度で示しているようなもの。
何とか彼を捕まえて、何とかなだめすかして一緒に行動することを認めてもらったのが……ほんの一分前。説得するのには十数分の時間を要した。つまりはまぁ……それほどに、『あの事』が彼にとって酷く大きく、重大なものであるということなのだろう。だからこそ、それに深く深く関わっている自分とは、すぐには向かい合えなかった。
引け目は、残っているらしい。
現に今も…一応は普通に話せるようにはなったが……どこがぎごちない。
今だって、自分の言葉を受けて苦笑をしているものの、少しばかり不自然さを感じる。
「……お前、どうやって思い出した?記憶を封じて回ったハレルヤならまだしも、お前じが思い出してるなんて変だろ」
「だな。俺はお前に、他のヤツらとは比べもんにならねぇくらい、厳重に鍵をかけてやったはずだぜ?とにかく、自力は無理だ」
自分たちの視線を受けて、アレルヤは、ピタリと足を止めた。
顔は背けられ、表情はよく見えない。
「ニールに会ったとき、それから『ニール』って名前を思い出したときに、鍵がいくつか解けたのは事実だよ。それから、マリナさんからライルの名前を聞いた時に少し…」
そう、それも、ライルが気にしていたこと。
あの皇女が、どうして自分を知っていたか。
「な、本当にあの皇女さんは俺のこと…?」
「うん。マリナさんは……ライルに会ったことがあるって言ってた」
「あの様子じゃ、あの女が嘘付いてるとは考えにくいぜ。ライル、テメェが忘れてるだけじゃねぇのか?興味ないことは直ぐ忘れるタイプだろ、テメェ」
「必要事項はちゃんと覚えてるっての…じゃなくて、俺は絶対にあの人は知らない」
そもそも、自分は都から滅多に出ないのだ。だから……都の外で仕事を請け負った場合、依頼主や守る対象、殺す目標は自然と頭の中に入る。そんなものだ。
「とりあえず関わりが分からねぇから記憶は消したけど」
「正しい選択可は分かり難いけど…だって、刹那にハレルヤのその力は通じないもの。直ぐに変だって気付かれてしまうよ。ね、ケルディム」
「俺には分からないっての。お前ら全員難しい話ばっかりでもう…聞く気にもなれないっていうかさぁ……そーいうのはデュナメスに押し付ければいいんだって」
ふぁ、と欠伸をしているケルディムはアレルヤと手を繋いでいて、今は自然な穏やかな笑みを浮かべている彼を見上げて、言った。
「ところで……本当にアイツらと会えんの?」
「うん。デュナメスも起きてるし、エクシアも、キュリオスも、ヴァーチェもいるよ」
「そっか……分かった」
嬉しそうにはにかんでいる人形…彼には、自分たちの最も重大としている議題も、酷く辛く思い出したくもなく目を背けたくなる過去も関係ないらしい。
ただ、長く会えなかった半身…それだけを想っているようだった。