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「それで……用件というのは?」
「簡単なことだよ……あの泥に出した招待、あれを取り消してくれれば良いんだ」
「そんなにパーティに出るのが嫌でして?」
ふふふっと笑う目の前の、ある意味では現状を作り出した張本人である人間を前に、リボンズは疲れたような表情をしてみせた。現に疲れてもいた。疲れの原因は主に、パーティに連れて行ってもらおうと機嫌を取りに毎日のように屋敷に来る、とにかくたくさんの女性たちであり……やっぱりパーティが原因なのだ。
前回経験したあの騒々しさは……もう耐えられないし。
つまりは、パーティさえ無くなれば全てが上手くいくのだった。
「一人ほど道連れはできたんだけどね……そんなことしなくても、パーティさえ無くなればいいって、さっきふと思いついたんだよ」
「それで裂け目を作って直ぐさまこちらにいらしたと?」
「そんなところ、かな」
「月代というのは便利な物ですわね。どんな力も視るだけで使えるようになるなんて」
「特権は利用してこそ特権さ」
何でもないように言う彼女に、何でもないように返す。
彼女にはあらかじめ自分が月代であり、影でこの都を動かしている存在だと知らせている。今の『アレハンドロの従者』という立場は、ハッキリ言ってしまえばカモフラージュ……ではあるが、一応、それが表の顔なのでカモフラージュとも言い切れない。
とにかく、彼女は殆どを知っている。
知らせた理由は、協力してもらうため。情報など、彼女のように幅広く顔を知られている存在でなければ得ることの出来ない物を提供してもらうため、である。もちろん報酬は存在しており、自分と彼女は対等の立場に立っていた。
「そういえば紅龍は?」
「彼なら今、少し席を外しています。何でも気になることが出来たとかで」
「気になること?」
「こちらですわ」
そう言って彼女が差し出したのは……一枚のチラシ。明日に行われるという、美術館での展示会のお知らせだった。
コレに何が、と、リボンズはそれを手にとって眺める。
何の変哲もないお知らせ……に見える。あの、留美を第一に考える従者が、彼女を置いて出て行くような理由なんてどこにも見つからない。
目玉は珍しい杖。だけれど、どう見ても接点は見あたらない。
「……何で彼は出て行ったんだろうね?」
「私も気になっていますの。けれど、訊く前に行ってしまったので……」
「分からないって事?」
「えぇ。珍しく焦っているように見えましたけれど」
「……あの紅龍が?」
それは何ともまぁ、珍しいどころの話ではない。
軽く衝撃を受けていると、同様の気持ちだったらしい。留美も溜息を吐いてチラシを自分の手から抜き取った。
「私たちの目的も、あと少しで達成できるかも知れないというのに……そんな大事なときに、一体どうしたのかしら…」
「目的?……あぁ、そういえば前から言っていたね。どんな事が目的なんだい?」
「それは内緒でしてよ」
そう。彼女は目的について語らない。
ずっと前からソレがあることは知っているのだが……どうしても、内容だけは教えてもらえないのだ。話を逸らされたり、断られたりと。
情報が入ってくるなら、別にそれでもいいのだけども。
つまるところ、自分たちは対等で、互いが互いを利用し在っている仲なのだ。
そして、それを互いに了承している。
それだけの話。