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「誰かと思えば懐かしい……君か、龍の人」
「その呼び方は止めていただきたいと、以前行言ったはずですが」
「そうだったね」
クスリと笑って、続ける。
彼だってそれ程この呼び名が嫌いではないことは知っていたけれど、確かに、都の中ではあまり言わない方がいい言葉ではあった。言ったところで、意味を理解できる人間が何人いるかは分からなかったけれど。
「じゃあ呼び直そう。紅龍、何の用?君が理由もなくこんな場所に忍び込んでくるなんて、そんな馬鹿げたことはそうそう起こらないよね?」
「約束を確認しに来ただけです」
「約束……あぁ、あれか」
何を指しているのか正確に理解して、少し呆れた。そのくらい、言われなくてもちゃんと守るというのに。というか彼女と出会うことがないだろうから、破りようがないような気がしなくもないのだけども。それでも言いに来るところ……大切にしているというか、生真面目というか。…両方か。
そんな彼だからこそ、こうやって話しているのだろう。他人事のようにだが考える。
思えば紅龍との付き合いは長い。会わなかった、会えなかった数年間もあるが、近くに寄れば間違いなく彼は自分の所に来る。そうして約束を確認して、他愛のない世間話をして去っていく。
正直、世間話の方は彼にとって必要ないんじゃないかと思う。あくまで本当の目的は約束の確認だろうに、何でどうしてわざわざそれを。
以前それを訊けば、友人だからとあっさり返された。
……あの時は凄く恥ずかしかった。
いや、恥ずかしいというのもおかしいかもしれない。
全身が熱くなって、心の奥が暖かくなった。それは事実だが。
あぁ、やっぱり恥ずかしかったのか。
「大丈夫、守るよ。ていうか…ふぁ…眠いなぁ……」
「いつから起きていたんです?」
「ん?都には行って直ぐにだよ。こんなにたくさんの知ってる気配があったんじゃ、僕でもオチオチ寝てなんてられないからね。久々に全員集合!?なんて状況なんだし、さ」
「全員……ということは」
「そ。僕ら九体、全員が都で揃ってる」
それは、そう。遙か昔、全員がバラバラになって以来のことだ。
懐かしいなんてものじゃない。あの時から今まで、出会ったのはアリオスくらいのもので、自身の対応型であるヴァーチェにだって会うことはなかった。
なんて懐かしいんだろうと思い、会ったら何をしようと思いを巡らせる。
巡らせる……巡らせるが、その前に、少し確認したいこともある。
「ね、紅龍はリジェネってしってるかな?」
「リジェネ……?いえ、知りませんね」
「ふぅん…アイツの気配もあるし、都にいるのは分かるんだけどな…」
「知り合いで?」
「腐れ縁って言うか何て言うか。そんな感じのヒト」
腐れ縁なんて可愛いモノでなく、もっとドロドロした関係なのだけども。さすがにそれを紅龍に言うのは憚られる。
「ま、知らないならいいや」
「あっさりしてますね…」
「まぁね。あぁ、ところで紅龍、僕っていつまでこの倉庫にいないといけないの?いい加減に待つの疲れたし外に出たい。理由も原因も不明だけど人間型になってるし、これで出ないのって結構もったいな……ってあれ?何で人型になってるの?」
今更ながらにハタと気付いて、呆れた様子の紅龍と視線がバッチリ合う。
……呆れられていて何だけれど、分かっていて何も言わない紅龍も大概だろう、これは。
はぁ、と溜息を吐いて、直ぐに気持ちを切り替える。分からない物は分からないのだ。
「紅龍、よかったら僕を外に連れ出してくれる?どうせ待ってたら展示品でしょ。僕、そういうのって苦手なんだよねぇ…」
「あのチラシを見て貴方を迎えに行くヒトもいるかと思いますけどね…」
「あぁ大丈夫。フェイク置いていくから。それで事情は分かるって」