[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
ハレルヤとマリーって、会話したこと無い……んですよね?多分。
あのあたりの過去の話とか知りたいなぁ……。
ということで、超兵sの幼少時代です。
04.サンプル
「ねぇ、マリーはどうしてそこにいるの?」
『分からないの』
それはとりとめもない会話の一つだった。
マリーが時々アレルヤの過去を訊こうとするのと同じように、アレルヤもマリーの昔を尋ねることがあった。もちろん、互いが互いに答えなど持ち合わせていないことは分かっているだろう。アレルヤの記憶からは過去が失われており、マリーに至ってはそれだけではなく感覚までもが失われている。憐れとも言えなくはないのだろうが、正直に言うとどうだって良かった。マリーというのはあくまで他人。興味の対象外だ。
大切なのは、マリーと話しているとアレルヤが楽しいと思えていること。それは恐らく喜ばしいことであり……けれどもまぁ、自分とアレルヤの時間が無くなるのは些か気に入らなかったけれども。そういう意味ではマリーは邪魔以外の何者でもない。
「そっか……そうだよね」
『えぇ。ごめんなさい』
「気にしないで。仕方ないよ」
いつも通りのやり取りにふぁ、と欠伸をかみ殺しながら、ハレルヤは辛抱強く二人の会話が終わるのを待つことにした。それが終わったらとことん自分の相手をアレルヤにさせる。興味のない話を聞かされ続けるのだし、そのくらいの意見は通してもらわなければ割に合わない。眠り続けるのも手なのだが、それはそれで本気でつまらないので却下。
次はどうせマリーがアレルヤの過去を訊こうとするんだろう。同じような会話で飽きはしないかと度々思うが、こんな閉ざされた空間の中で新しい話題を見つけるのは難しい。話の重複はやむを得ない事なのだろう。
だが、今回は違った。
『……多分ね、アレルヤ、私は見本なのよ』
マリーの呟くような声に、アレルヤは首を傾げた。
「見本……って?」
『完全な超兵の見本』
「……完全な」
反復される言葉に、ハレルヤは溜息を吐いた。
超兵。完全なる兵士。全てにおいて優れ、また、そうあるようにと強制される生きた兵器。バカバカしい妄想だ。そんなものが普通にやって出来るわけがない。人間の能力をどれほど過大評価しているのだろうか。
にしても、と次に浮かんだのは笑みだった。完全なる超兵の見本が、こんな五感を失ってしまった小さな女だとは。そうでもないとマリーが放置されている理由は確かに内のだが、そうだとしたらもっと別のマシなサンプルはなかったのかと研究員を問い詰めたくなる。いや……五感がない、動けない彼女だからこそサンプルに持ってこいなのかもしれないが。動かない対象ほど拘束しやすいものはない。
『あくまで一時的なモノなのだと思うけど』
「それって……悲しくない…かな」
『アレルヤ?』
沈み込んだアレルヤの言葉にマリーが不思議そうな声を上げる。
『どうしたの、アレルヤ?』
「だって……それって、もっと凄い誰かが出来たら、マリーはいらないってことじゃないか。そうしたら君は……」
処分される。
その言葉はただ、アレルヤの心の中だけに止められた。脳量子派に乗せて発せられなかった声はマリーに届くことはないだろう。しかしそれはハレルヤには容易に伝わってくる。アレルヤの心の声なんて、片割れが意図的に、しかもかなりの努力を要しなければ自分に届かないことは無いのだから。
そして結果、ハレルヤは呆れる以外になかった。自分たちだって結構危ない状態であるのに何を言い出すのやら。他人に構っている暇があるのなら、少しでも自分が生き残る可能性を上げればいいものを……こんな甘い片割れだから、自分が必要なのだろうが。
「……とにかく、僕は心配だよ…」
『アレルヤ、心配してくれるのは嬉しいわ。でも、これこそ仕方がないの。だって、ここはそういう場所でしょう?』
「……うん、そうだね」
『それでもね、貴方がいてくれるから私は嬉しいの』
「マリー……!」
ぱぁっと、まるで電球のように瞬時に明るくなったアレルヤの顔を見て、というか正確には知覚して、ハレルヤは現金なヤツだと呟くに止めた。この状態の片割れには何を言っても無駄だろう。
アホらしい。やっぱり……とつまらなかろうと何だろうと、こんな状況なのだしふて寝を決め込もうかと思い……その前にやることを一つ、見つけた。
オイ、とアレルヤを呼んで片割れにだけ聞こえるように言う。
俺もいるからな。
その言葉に驚いたようなアレルヤの思念がさざ波のように伝わってきて、その後直ぐに、うん、と静かな肯定が返ってきた。
あんな狭い世界しか知らなかったら、話せる事も少ないと思う。