いらっしゃいませマイスター！②

終わりまでの見通しが全くありません。
……それって結構拙いんじゃ…。

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　連邦の偉い誰か（名前は興味がないので覚えていない）との通信を終えて部屋に戻ったリボンズが見たのは、にわかには信じられない光景だった。
　誰が想像するだろうか。
　敵に位置しているであろうCBのマイスターがそこにいるなんて。
「……えっと？」
「あ、リボンズ、通信終わったの？」
「終わったよ。それよりも、そこにいる無関係者は何」
　朗らかに笑いかけてくるリジェネに絶対零度の返事を返して、リボンズは空いていたソファーの一つに腰掛けた。まさか、戻ったらこんな状況になっているとは。現状のあまりの有り得なさに、何だか頭痛すら起きそうな気がする。
　とりあえず皺の寄った眉間を揉みほぐしていると、いつものように無邪気なリジェネの声が耳に届いた。
「ティエリアに会って来ようと思ったけれど、急遽計画を変更して誘拐してきたんだよ」
「つまり無計画ってことかい？さらに言うと考え無しの行動って事？」
「違うよ。僕はただ、あぁいう時は誘拐しないといけないんだろうな、というその時の心の声に従ったまでなんだってば」
「それを世間一般では考え無しって言うんじゃないかな？」
　思い切り衝動的に行動しているリジェネに対しては、最早溜息すら出ない。いつものこととはいえ、もう『いつものこと』と済ますことが出来るレベルではないに違いない。ティエリアに会いに行くのはまだ良いとしても、流石にコレは問題だ。
　居心地の悪そうに身じろぎしているアレルヤ・ハプティズムはひとまず置いて置いて、先ほどから黙り込んでいるリヴァイヴの方を向く。彼ならきっと、求める答えを返してくれることだろう。
「リヴァイヴ、君はどう思う？」
「……リボンズ、彼をしばらく置いておきませんか？」
「え？」
　リボンズは目を丸くした。
　今、真面目なあのリヴァイヴが、本気で無関係な人間を『ここに置いておかないか』という言葉を口にした。
　何だろうコレは。
「……天変地異の前触れとか言わないでくれる？」
「大丈夫だよリボンズ、誰も言ってないし」
「これは独り言だから反応しないでくれるかな？……で、リヴァイヴ、君のその意見の理由について訊かせてもらおうかな」
「いえ、その……」
　リヴァイヴはそう言って少し間を開け、呟くように答えた。
「……料理がうまくて」
「料理？」
「あと、家事も得意なようで、置いていても損は無いと思います」
「そういうことだよリボンズ。ほら、この紅茶」
　カチャリとカップを持ち上げてリジェネが笑う。
「アレルヤが淹れてくれたんだよ？で、とっても美味しいんだ」
「どのくらい？」
「今まで飲んだことがないくらいにね」
　よかったらリボンズもどう？
　そう言われて差し出された紅茶を前に、逡巡したのは一瞬だった。
　直ぐに決意を決めたリボンズはカップを受け取り、ほんの少しばかり、口の中へと紅茶を流し込んだ。
「……美味しいね、確かに」
「でしょう？今度クッキーも作ってもらえる事になったんだよ」
「その時は僕たちも手伝うことになったんです。リボンズもどうです？」
「時間があったら、良いかもね」
　フッと笑って、リボンズは再び紅茶を飲む。
　成る程、彼ら二人が置いておけと言うわけだ。この紅茶は今まで飲んだどんな物よりも美味しい。クッキーを作ろうという話が出たことから、料理にある程度慣れていることも分かる。この分だと、家事が得意だという事も嘘ではないだろう。
「アレルヤ・ハプティズム…だったね、君」
「え？あ…はい」
「しばらくここにいても良いよ。僕が許可するから」
「……返ったらダメですか？」
「ダメに決まってるじゃないか」
　何を言い出すのだろう、彼は。折角こちらがいても良いなんて言い出したというのに。こんな貴重な経験は間違いなく、未来永劫無いのだけれど。まぁ、ここから変える方法も分からないだろうから、ここに置いて置くに当たって支障はないだろうが。
　こんなに紅茶を上手に淹れられる人をみすみす逃す手はない。
　……が、ふと、彼は自分たちの正体を知っているんだろうかと不安は覚えた。

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ちなみに、アレルヤは彼らが『イノベイター』であるとは知りません。
ただ、少しくらいは「あれ？」とか思っています。