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番外編・4
賢人の家にたどり着いたのは、昼が回った頃だった。この時間帯なら彼は基本的に家から出ないから、ある意味では都合が良かったと言えるだろう。
「ラサー、会いに来ました」
「マリナ姫……このような場所に何の御用で?」
「会いたかったから会いに来たのよ、ラサー。顔が見たかったの」
開かれた扉の向こう側にいたラフマディーの腰に抱きついたマリナは、そういいながら見上げて微笑みを浮かべた。会えたことが本当に嬉しいのだろう。
姫様もまだ子供だから、と思いながら、シーリンは一言断ってから刹那と共に家の中へと足を踏み入れる。しばらく二人は動かない(動けない)と推測できたから、待っていても時間の無駄であることは容易に分かった。
「…マリナ・イスマイールは何故、マスード・ラフマディーをあそこまで好いている?」
「あら、刹那は知らなかったかしら?」
「……何を?」
リビングに足を踏み入れて数秒後、不思議そうな顔をして訊いてくるる刹那に、シーリンは机の上に土産の菓子とリンゴとを共に一つ置いて、答えた。
「マリナ様は子供。小さな国主なのよ。だから、大人は簡単に組みできると思うけれど……実際はそうはいかない。姫様は案外、芯がしっかりしているもの」
「しっかりしすぎな気もするが……」
「かも知れないわね。けど、だからといって孤独を何とも感じないワケでもないのよ」
組みできない、利用できない子供の皇女。そんな少女を大人がどう思うかなど、想像に難くない。そして、自分は想像するまでもなく間近で見ているわけだが。
「今はまだ子供だから良いわ。その事実を盾にして、政治に介入させずに済むもの。けど……時が経てば、彼らは敵になるでしょうね」
「……なるほど、賢人は数少ない大人の味方、か」
「その通り」
「…面倒だな、権力というのは……」
何かに憂いているように呟き、刹那は軽く飛んで机の上に座った。
それから自身のもらった菓子のフタを開けて、中から一枚を取りだして囓る。
「いっそ……万人が平等になれば、平民になればいいと思うが…」
「それを許すような権力を持った人間はいないわ」
「……違いない」
苦笑混じりの同意を受けた頃にはマリナとラフマディーもリビングへ来ており、ふと見てみれば刹那はいつの間にか机から降りていた。マリナの目が怖いのか、あるいは賢人に敬意を払ったのか……両方だろうか。
「あら、お菓子も食べずに二人とも待っていてくれたの?」
「俺は食べたが」
「そうななくて……貴方のじゃなくて、お土産の、よ」
「いや……それはどうだ…?」
土産を渡す相手に渡す前に食べ出すというのは……客としてと言うか、良識を持つ人間として如何なる物だろう。権力しか頭にない大人でも、そこはさすがにわきまえているだろうに……。
思わず呆れて皇女に視線をやるが、彼女は答えた風もなく笑っている。
それを見て、シーリンは諦めた。そう、これでこそマリナ・イスマイールとも言えるのだから、自分がそこにどうこう言っても無駄だろう。
「では、姫様と刹那はここでのんびりしていて下さい。私はラサーと話があります」
「シーリン……独り占めはダメよ?」
「違います。今後の方針について、色々と相談したいことがあるので」
では、と賢人の手を引いて、シーリンはリビングを後にした。
……ちょとだけ、刹那を心配に思いながら。