[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
番外編・7
マリナを刹那に預けて、シーリンは一人、用があるからと言って夕暮れの街へと出た。不思議そうな顔をされたが用事があるのは事実だし、別に彼らに彼を紹介する必要もないだろうから問題はない。
とはいうものの、やはり夕刻。治安が完全に安定しているとは言えないこの国で、こんな時間帯に子供一人で外に出るのは、やはり危険な行為だと言える。けれども、この国の住人でシーリンを知っている者は、決して自分をさらおうと考えないはずだ。
自分がいなくなったらマリナを補佐できる人間が大人にも、おそらく子供にもいないのだ。結果として、国が傾くことは間違いないのだから。そして、そういう人間は、よっぽどでない限り、おおよそがさらう相手のことを良く調べてから行動するものである。
国の治安を悪化させたいという物好きがいるのならば話は別だが……いや、そういう輩が誘拐騒ぎを起こすのか。ならば自分も危ないのかも知れない。…いざとなったら近隣住人を頼ろうか。
「オイ」
「…?」
そんなことをつらつらと考えていたとき、ふいに背後から声が掛けられた。
振り返ってみると、そこには一人の子供の姿があった。年の頃はよく分からないが、碧色の瞳と白い肌が特徴的な、オレンジ色の髪の鋭い目つきの少年。
彼は、不思議な服を着ていた。どこかの民族衣装のようで、上半身は体にぴったりとしたタートルネックでノースリーブの黒い服。むき出しになっている腕には二の腕から、裾へ行くにしたがって広がっていく袖の装飾品が付けられていた。下半身は足元まで覆う腰布と、ベルトが斜めに掛けられている。
髪型も滅多に見られないものだった。後頭部から(だろうか…?)横に跳ねている髪の端は上向きになっており、首の辺りで括られた長い髪は全体を紐で結んでいるわけでもないのに細く纏まっている。そして、纏めている髪とは別に、顔の左側に二房の髪がそのままにされていて、先にはそれぞれ二つほどの鈴がついていた。
どこからどう見ても普通の出で立ちではないが、生憎、シーリンはそんなことで話を振ることを躊躇する人間ではない。毎日マリナの傍にいるお陰でトラブルには酷くなれており、ちょっとのことでは気にも留めないのだ。
「何かしら?」
「…テメェ、驚かねぇのか…?」
だから何とも思わずに話し掛けたのだが、相手は拍子抜けしたらしく呆けた表情を浮かべていた。どうやら自分の格好が妙であるとは自覚があるらしい。
それは気にしないが…ともかく、何故彼は自分に話し掛けたのだろう。
訊いてみると、変なヤツ…と呟きながら言った。尋ねたいことがある、と。
「…尋ねたいこと?」
「そうそ。この国の国宝だっけ?首飾りあんだろ…あれ、どこにあんだ?」
「聞いてどうするつもり?」
「見張りを全員殺してでも、この国をぶっ壊してでも奪い取る」
さらりと告げられた言葉に、自然とシーリンの顔が強ばる。本気だと…感じられた。
だが彼はクククッと嗤い、大丈夫だ、と付け加えた。
「この国で騒動起こすのは止めてやる。何か面白いのに会えたし、俺は結構機嫌がいいんだよ。サービスってヤツだな。それに…ま、別のヤツらを起こすのが先でも良いし」
「それは…どういう意味かしら?」
「そこまではサービスしねぇよ。じゃな、この国存亡の危機を救った英雄さん」
ヒラリと手を振って、少年は去っていった。
呆然とそれを見送って、背中が見えなくなったところで我に返る。
「一体…何だったの…?」
「何が?」
「さっきの少年のこ……と…!?」
あるはずのない返事に驚いて、体を反転させると、そこには宿まで訪ねに行こうとした少年の姿があった。ここしばらく宿にいる彼に、気を取り直してシーリンはリンゴを差し出した。
「…これ、ついでだから貴方にあげようと思って。クラウス、これ、いるかしら?」