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差し出された手に、ライルは躊躇した。
自然に差し出された手。アレルヤから差し出された手。その手を取ることは、実に普通のことであるように思える。むしろ取らない方が変であるような気がする。
けれども、何だか妙なのだ。あの短時間で、あのアレルヤが、ここまで変わってしまうのはおかしすぎる。どこが変わったかと言えば、例を挙げるなら例えば自分に対する反応だろうか。彼には引け目があるから、ここまで自然に誘って手を出すことは難しい。つまり、自然であるからこそこの不思議さは存在していた。
そして、躊躇している間にハレルヤが子供の手を取った。
残るはライルだけ。
子供の視線が速く、と自分を促す。
「……俺は行かないぜ」
「え?」
「行かない」
だが、ライルは手を取ることを止めた。その手を取ることは出来ないと、そう思えた。根拠はない。単なる勘だ。間違っている可能性の方が高いが、しかし、だからといって放っておくのも些か躊躇う勘。
「悪いな」
「そう」
少しも悪いと思っていない謝罪にも、アレルヤは対して落胆した様子もなく頷いた。
そうして次に、あの、リジェネの方を見た。
「で、君はどうするの?帰る?送ろうか?」
「うわぁ……対応が凄く違うね…こっちには丁寧さをくれないの?」
「何であげないといけないの。言っておくけど僕、全部思い出してるから」
「いつ頃からの?」
「君が生まれるずっと前、とでも言っておこうかな」
冗談と受け取ってくれても良いよ。
アレルヤはそう続けて、くい、と彼が先ほど出て来た影の方を指した。
「彼のことは君が連れて帰って」
「……いいの?」
「良いも何も、彼に関しては僕は手が出せないから」
はぁ、と頬に手を当てて、溜息を子供は吐いた。
そうしてチラリと、ハレルヤを見上げる。
ちなみに見上げられたハレルヤは即行で視線を逸らした。
「どうにも、僕には甘くても他人には厳しいヒトがいるらしくて」
「助けるのは君だけ、ってことかい?大変だねぇ…」
「うん。だから早く帰って」
「はいはい。……また迎えに行くから」
最後だけ小さく呟いて次の瞬間、リジェネの姿は綺麗に消えた。おそらく、もう一人の姿が見えていない誰かも消えてしまったことだろう。
「じゃあ……こっちはソーマちゃんにお願いして良いかな。場所は、さっきのトコ。倉庫の中って事でどうかな…あそこには機械がないはずだから」
「えぇ。構いませんが……貴方はどうするんです?」
「僕は少し、話があるからね。後で合流する」
……今この瞬間ほど、アレルヤの笑顔が信用ならないと思えたときは無かった。
後で合流するなんて、なんて信用できない言葉だろうか。彼は必要とあれば間違いなく自分たちから離れることが出来るというのに。そして今は、それが必要なときであるのだろうと、自分でも分かるのに。
「じゃ、また後で…その時に説明してあげる、イオリアの忘れ形見たち」
「……!?何故それを知って…」
「ソーマちゃん」
「……分かりました」
ガバッと顔を上げたヴァーチェはそれ以上喋る事も出来ず、ソーマが作り出した裂け目の中にライルたち共々呑みこまれた。