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十年後。多分、まだ裏の世界に入りたて。
そんな感じの雲雀さんと、どこかの南国植物の話です。
路地裏に座り込んでいると足音が聞こえたので顔を上げれば、そこには独特な髪型をした同僚と呼ぶのもどうかと思う相手が立っていた。
「クフフ……良いザマですね、雲雀恭弥」
「……何の用、南国植物」
「ちゃんと六道骸、と名前で呼んでください。傷つきます」
対して傷ついた様子もなく肩を竦め、骸は武器も持たずに雲雀の傍らへとしゃがみ込んだ。こちらが彼を、とにかく咬み殺したいと思っていると知っているくせに、何て無防備な態度だろうか。余裕めいた様子も相まって強い苛立ちを覚える。
けれども、今は。雲雀はため息をついた。
「……咬み殺してあげたいけれど、今は止めておいてあげる」
「『止めておいてあげる』、ですか……違うでしょう?」
クフフ。彼は再び笑い、言った。
「出来ない、の間違いでしょう?」
「……」
「おやおや、だんまりですか?」
「……煩い」
出来ないことくらい分かっている。自覚はあるし、事実だ。
それでも他者によって事実を突きつけられたという現実は、苛立つ。
相手を睨むと同時に思わず右手に力を込め、痛みに一瞬息を詰めた。その次に感じたのは指先に触れるドロリとした液体の存在。敵ではなく己がそれを流していることに不快感を覚えた。
それは、左の脇腹の銃弾による傷。
「良いですか?貴方といっても人間なんですから、もっと自分を労ってください」
「君に心配されるなんて世も末、かな」
「酷いですよ恭弥君。僕は結構貴方を気に入っているというのに」
「嬉しくない」
あの赤ん坊にそれを言われたら嬉しいが、骸に気に入られるなんて迷惑だ。
今も笑みを浮かべている骸を見やり、少し頭を振った。視界がぼやけてきたのだ。……血が流れすぎたからか、貧血の症状が出ているらしい。
そういえば後処理のための連絡はしただろうか。
「……ねぇ」
「ちゃんと後処理の皆さんは活動していますよ。あと、僕の独断で救護班も呼びました」
「…勝手なことを」
「クフフ、良いではありませんか。これで気兼ねなく僕と一緒に話せるのです」
「嫌だ」
「……やっぱり酷いですよ恭弥君」
ついには泣き真似まで始めた骸を呆れながら見やり、息を吐く。
何だろうコレ。一番最初の骸の微妙な真面目さは一体どこへ。そもそも彼はどうしてこのような場所に……
そう考えてはたと気付く。
そういえば、どうして骸はこんな路地裏に現れたのだろう。今回はクロームとの共闘があったわけでもなく、そうであったとしても骸が出てくる道理は……いや、考えても無駄か。彼はやりたいようにやる人間だから。
こんな相手に『理由』など考えるのは時間の無駄だろう。今回だってただの気まぐれに違いない。
ならば付き合って会話を続けることもないだろう。そう判断した雲雀は立ち上がろうとした。脇腹に穴が空いていようと関係はない。骸だろうと救護班だろうと、他人の手を借りる気など毛頭なかった。
しかし。
「ダメですよ、動こうなんて思っては。傷に響きます」
「……」
やんわりと肩を押し返され、渋々ながら立ち上がるのを断念した。本当に小さな力で押し返されたのは分かるのだが、それにさえ抵抗できなかった。何か悔しい。
こんなことになるのなら、もっと慎重に行えば良かった。そうすればあるいは傷を負うこともなかっただろうに。
「恭弥君」
唐突に、骸に呼ばれた。
何、と視線を向けると、彼は真面目な顔をしていた。
「僕から見れば、貴方はまだまだ甘い。真っ直ぐ過ぎると言うべきでしょうか。裏の世界たるマフィアの世界では、そのままでは生きていくのは難しいでしょう。もう少しくらい『ずるさ』を身につけるべきですよ。それが嫌なら、」
そこで一度、骸は言葉を切って、自分と目を合わせた。
真剣な、鋭い目だと、思った。
いつもその目なら良いのにと、何故か力の入らなくなった瞼を降ろしながら心中で呟く。
それなら、あとちょっとくらいは好きになってあげられるかもしれないのに。
「強くおなりなさい、雲雀恭弥」
意識が沈みきる前に耳に届いた言葉に、言われるまでもないよと応えようとしたところで本当に意識が落ちて。口から声は出ただろうかと少し疑問を持った。
けれど間際に笑う気配を感じたから、言いたかったことは伝わったらしい。
骸が来たのは、怪我してても場合によっては動こうとする雲雀を止めるためだったり。