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最後まで彼らもCBということで。
本編沿いの菫のお題がもう満員なので、本編沿いはこのように、別のお題の後ろの方からやっていくことに。

留美と紅龍の、まだまだ小さいときの話。
そして紅龍視点です。



20.空の向こう側



 快晴の空は、見上げればその先も見えそうな程に真っ青だった。雲一つ無い、というべきだろうか。そんな感じの青すぎる、障害物のない空。
 その空の下、紅龍は留美と一緒に緑の芝生の上で座っていた。
 王家の本邸の庭で、無邪気に笑う幼い妹の様子に自然と紅龍の頬もゆるむ。まだまだ幼い彼女にはこの『王』という大きな一族の巨万の富も、当主の座も、生きていく上で枷にしかならない全てのことも。一つも理解できていないだろう。
 それで良いのだと、留美の頭を撫でながら思う。
 大丈夫、当主になるのは自分のハズだから。この妹にそれによって起こる弊害も何も、降りかかるわけがないのだ。それでも本家の人間としての宿命が消えることはないだろう。そこは、自分がどうにかしてやればいいのだ。
 大丈夫、大丈夫なはず。
 しきりにそうやって自分に言い聞かせているのは、その本家が妙に騒がしいからだった。
 子供であろうと、この不穏は肌で感じられる。それほどに強く騒がしい不穏の気配。それを大人たちは自分たちに隠すことさえ忘れているようで、ほら、あちらの廊下を見ればパタパタとかけていく足音と大人。
 不安。それを見て思うのはそれだけ。
「ほんろんおにーさま?どうかされまして?」
「いや…何でもないよ、留美」
 知らず知らずのうちに不安が顔に出ていたのだろう、心配そうに自分を見上げた妹の頭を再度優しく撫でて、紅龍は留美を抱いて立ち上がった。
 未だに不安は消えないが、騒がしいこんな場所に留美を置いておくわけにも行かない。秘密のお気に入りの静かな場所があるから、そちらへ移動した方が良いだろう。
「おにーさま?」
「少し移動しようか。この辺りはちょっと騒がしくなったから」
「はい!」
「元気の良い返事だね」
「とうぜんですわ。だって、わたしくは、おにーさまのいもうとでしてよ!」
「そうか。嬉しいよ」
 今度は理由がないままでも宥めるでもなく、よくできましたと褒めるような気持ちで頭を撫でてやる。すると、さっきよりも留美は明るく笑った。撫で方の違いが分かったのだろうか。それならば凄いとしか言いようがない。
 ともあれ、妹からの了承も得ることが出来た。そろそろ移動しても良いだろう。
「でも、おにーさま、どこへいくんですの?」
「静かなところだよ。私のお気に入りの場所だ」
「おにーさまの?おきにいり?」
「静かで人気もなくて、自然が他より少し多い気がする場所だよ」
 自然が少し多い気がする、といってもつまるところ、そこは手入れがあまりなされていない場所なのだと言うことだが。本家は大きいため、たくさんの使用人を抱えていようと手入れが行き届かないことはしばしばある。
 そう言うところに、留美はあまり行ったことがないだろう。ということは、ちょっとくらいは興味を持ったりするのだろうか。妹は好奇心旺盛な年頃である。
 しかし、予想に反して留美は不機嫌そうに紅龍の服を掴んでいた。
 思わず首をかしげる。
「留美?」
「おきにいり、というのは」
 頬を僅かにふくらませたまま、留美は口を開く。
「わたくしよりも、ですか」
「……ふふっ」
「おっ、おにーさま!?わたくしはほんきでしてよ!?へんとーしだいではただではおきませんわっ!」
「留美の方が大切だし、大好きだよ」
 微笑んで断言してみせると、ピタリと止まる妹の声。
 それから少しして、留美は顔を僅かに逸らした。
「わ…わかればいいんですの」
「留美、顔が赤いけど。耳まで」
「それはおにーさまのみまちがい、ですわ!」
「そう?」
 必死そうな留美の様子を見て、これ以上からかうのは可哀想かとこの話は終えてやることにする。じゃあそうなのだろうねと笑って、とうぜんですの、と留美に返されて。
 と、その時、手元にあった通信機が鳴った。
「…留美、ちょっと良いかい?」
「おにーさま?」
「ちょっとだから」
 留美を降ろして体ごと留美から顔を背け、紅龍は通信機を付けた。
 そして。
「なっ…ダメです!留美にそんな重責……ッ」
 通信の内容は留美を当主にするという旨。拒否権も、覆すこともない決定事項。
 紅龍はだが、それを拒否したかった。留美にあんな世界を見せるなんて許されない。
「私ではダメなのですか…!?」
 最後まで食らいついての言葉に、帰ってきたのは無音。通信は切られた。
 何と言うことなのだろう。拒否など本当に出来ないのだ。決定事項だから。
「…おにーさま?」
 呼びかけに呆然と振り返ると、何が何だか分かっていない妹の姿が見える。
 とてもとても愛しい妹。誰よりも愛していると自覚している、ただ一人の妹。その妹に当主の座を?彼女が、それを喜ぶとも思えないのに。そんな地位、留美を歪ませるしかないだろうと分かっているのに。
 なのに決定事項。逃げられない。逃げ出しても直ぐに捕まる。王家はそれほどの力、財力を有する。……この家に生まれたときから、自分たちは檻にいたのだ。
 知っていた、けれど。
 知っていたから、せめて留美だけはと思ったのに。
 なのに。
「留美……すまない」
「おにーさま…?どこか、いたいんですの?そういうときは、いたいところをなでるといいんですのよ?そうしたら、いたいのがとんでいくんですの」
「……そうなのか。でもね、留美、私の痛いところは触れられないところにあるんだ」
 しゃがんで小さな幼い妹を抱きしめ、紅龍は静かに静かに目を閉じた。
 自分が至らないが故に、留美に重責を担わせてしまう。それは覆らない。ならば自分に一体何が出来るだろう?ずっと傍にいることを、留美は果たして許してくれるのだろうか。全てを押しつけてしまう自分を、彼女は、当主は許してくれるだろうか。
 憎まれるかもしれない。そう思うと胸の奥の部分がジクジクと痛む。
 あぁ、それでも、それでも自分は。
「私は、どこまでも貴方に付いていきましょう」
 それが、全てを押しつけてしまう自分の責任だ。
 重責に堪えられず、地位を持つが故に人の暗い部分にさらされ続ける妹の、傍に。
 生きている限り。切り捨てられようと。
 全ては幼き当主のために……最愛の、妹のために。
 だが、そんな思いを留美が知るわけもなく、不思議そうな顔をしてこちらを見ていた。
「おにーさま……?」
「……何でもないよ、留美」
 身を離して笑みを見せて、紅龍は留美を抱き上げた。
 ふと見上げた空は雲一つ無い快晴だった。
 しかし不思議なことに、その先が見えるような気は、全くしなかった。







彼らも結局、世界に翻弄されただけの存在だったのかな、とかね。
 
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