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都を裏側から統べている月代たちは、基本的に一つの大きな屋敷で生活している。
リーダー格たるリボンズは別の場所に住んでいるが、それはまぁ、仕方のないことではあった。自分たちが『裏側』から統べている以上は表に出ることはなく、従って表の事象を知ることが出来ない事が多い。だから、それを補うために彼は人間の家に身分を、種族を偽って住んでいるのだ。
その雇わせている人間が金持ちであるのはツテが多い事もあろうが、やはり、支配者として金をたくさん使う生活に慣れてしまったからであろう。金持ちの家はどこもかしこも無駄に金がかかっているので、何となく悲しい思いをせずには済むはずだ。
しかし、アニューは思う。
質素も良いのではないだろうかと。
「貴方はどう思う?」
「どう、と言われても…」
困るのだが、と雄弁に表情で語るデヴァインにクスリと笑いながら、アニューは干した布団をポンポンと手でたたいた。ホコリがブワッと舞い、最近天気が悪くて干せなかったのだったと思い出す。やっぱり定期的に布団を干すのは大切だ。
アニューは基本的に、仕事のために家から出ることはあまりない。自分の役目は後方支援が主で、そんな自分があちらに出てしまうと些か問題がある。ハプニングが起こりやすいのは向こうであり、傷つきやすいのも向こう。ならばと安全性を考慮されてこちらで、自分は待機を続けているのだ。
が、本来はそういう目的だったのだと思うのだが、今では絶対に違うと思う。目的が何か変わってる気がする。別に、それでどうなるわけでもないのだが。
何だか、こっちで家事炊事をするのが自分の仕事になってる気がするのだった。
ヒトには向き不向きがあるし、自分はこういうのに向いていると思うから良いのだが。あぁ、でも、とりあえず全員がある程度は給仕を出来るようにはなって欲しい。ブリングやデヴァインは並に出来るがリヴァイヴとヒリングは。
リヴァイヴの方はやる気はある、けれども空回り。
ヒリングの方はそもそもやる気自体が無いかった。
「お昼は何かリクエストはある?」
「いや…別になにもない」
「そう…なら簡単にサンドイッチでも作りましょう。二人前…で良いかしら。帰ってこないわよね、みんな」
昨日は帰ってくる、と言っていたリヴァイヴも帰ってこないで不思議に思ったのだが、昨日帰らなかったのなら今日の昼に帰ってくることはないだろう。仕事時間はきっちり夕日が沈むまでは絶対に、というのがリヴァイヴが自分で決めたルールらしいし。
仕事で少し手が離せないのだろうか……というか、あの仕事で手が離せないというのはどういう状況なのか。管制室?には最低でも二人詰めているはずであり、片方が休んでいる間は片方が仕事を続けていられるハズ……なのだけれど。
事情がどうであれ、彼が今ここにいないのは事実。
……後で、サンドイッチを差し入れとして持って行くべきか。
「少し多めに作って……余ったら明日の朝ご飯に回せばいいし…」
「アニュー、洗濯物は全て干した」
「あ、ありがとう」
ひょこりと布団の向こう側から顔が出ているデヴァインに笑って見せ、アニューはもう一度布団をたたいて室内に入ろうと彼を促す。
ふと空を見上げれば青い空、白い雲。
いつもと変わらない普通の風景。
相変わらず、ここは平和だった。