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刹那は、絶対に色々と考えてる。
自分のこととか、他人のこととか、世間の話とか。
02.多かれ少なかれ
とある夜更けの話である。
眠っていたマリナは、自分を起こす声を聞いた。
「起きろ、マリナ・イスマイール」
「待ってシーリン、あと少し……」
「シーリン?誰だそれは」
その言葉が耳に届いて、マリナの意識は完全に覚醒した。
起き上がってみると、ベッドの傍に立っているのは眼鏡をかけている侍女、ではなくて。
「……刹那?」
CBのガンダムマイスターだという少年、刹那・F・セイエイだった。
無表情で立っていた彼は、近くにあった椅子を持ってきて、それに黙って腰掛けた。部屋の主であるマリナに無断で。
しかし、マリナも気にしていなかった。
最近、たまに来るのだ。彼は、ここに。
あの椅子はもともと彼が座れるようにと新しく置いた物だから、勝手に座ってもらおうが問題はない。
では、夜更けに少年が部屋に来るのはいいのか、というと……それはもういい。慣れてしまった。一番最初は驚いたものの、それが十何回と続けばその感情も薄れていくというものだ。それに、彼に悪意があるわけではないと知っている。
刹那ここに来るのはだいたい、彼がマリナに相談事を持ってくる時だ。それはとても具体的なことだったり、逆に抽象的なことだったり。疑問に思ったことはどんなことでも訊いてくるらしい。何故、マリナなのかは知らないが……彼にだっているのだろう仲間に相談するのはもしかしたら、恥ずかしいのかもしれない。
…とまぁ、そういうわけでマリナは結構、刹那と触れ合う機会を持っているのだった。
「今回は何?」
「どうしても、訊きたいことがある」
その声の響きに真剣なものを感じ取って、マリナは居住まいを正した。相手が真剣なのなら、こちらも誠意を持って対応しなければいけない。
無言で促すと、彼は躊躇うように口を開いた。
「……好きな人がいるんだ」
「あら」
少し意外だった。もっと『世界が~』という壮大な話かと思っていたのだ。今まで彼が深刻そうに言い出したのは、こういうことだったから。結局、ちゃんとした答えは渡せなかったのだけども。
「それが、いったいどうしたの?人を好きになるのは変なことじゃないわ」
「問題は好きなった人が同姓だったと言うことだ」
「そう、なの?」
それは大変だ。茨の道になるだろう。
そんなことを考えていると、刹那が不思議そうにこちらを見た。
「俺にはよく分からないが、どうやら世間一般ではそれは変だと言われているらしい。嫌悪感を抱く者もいるそうだが……マリナ・イスマイール、お前は平気なのか?」
「……驚きはしたけれど、でも……」
マリナは、言葉を選びながら言う。
「そうね、とても陳腐な言葉だけれど……刹那が好きになった人が偶然同じ性別の人だっただけで、ただ、それだけのことなんじゃないかしら。偶然、女の人じゃなくて男の人が好きになった。それだけなのだと思うわ。だから私は」
「平気だと?」
「そういう人がいるというのは、よく分かっているもの。多かれ少なかれ、人は人を好きになるものよ。その恋の中に、一つくらいそういうのがあってもおかしくはないと思うの。変だとか、そういうことは考えなくていいと思うのだけど……どうかしら?」
微笑んで刹那を見る。
刹那はしばらく考え込んでいたようだが、そうか、と一言小さく返した。
その時の彼の表情が心なし穏やかなものだったのは、マリナの見間違いではないだろう。
「いろいろと参考になった。礼を言う」
「かまわないわ。また、いらっしゃい?」
「分かった」
立ち上がった刹那は、窓枠に足をかけて飛び降りていった。
部屋に一人残ったマリナは、再び横になる。
刹那の役に、少しはたったのだろうか……あの返答は。
そうだったらいいな、と思いながら、マリナは瞳を閉じた。
私的マリナ様=刹那の相談役にして実は最凶だとか。
最凶のほうは、笑顔動画の「武力介入できない~」のアレのせいで植え付けられたんですけど……。