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「君に一つだけ教えてあげようか」
ふいに、連行中のセラヴィーが口を開いた。
連行を行っていたケルディムがどうしたのかと視線をやると、同類は刹那の方を見ていた。話しかけたのは彼に対してと言うことか。
見下ろす刹那に、微笑むセラヴィー。
話せ、と言ったのはエクシアだった。
……って。
「そこでお前が言うんかい!」
「エセ関西弁はいらない。それよりもセラヴィー、言え。気になる」
「いやあのさぁ…僕は刹那に言ったんだけど……見てた聞いてた分かってた?」
苦笑を浮かべる元・杖に、こくりと頷くエクシア。既にケルディムのエセ関西弁の事など忘れ去っているようだった。付け加えると、刹那が教えろとも教えるなとも言っていないことさえ忘れ去っているようだった。
「見ていていたし聞いていたし分かっている」
「分かってて言うんだね……たまにエクシア、君って実はかなり大物なんじゃないかと思えてくるから不思議だよ。ていうかダブルオーも似たような物だよね、基本的に。他人よりも自分のことを優先させるときは、とことん優先させるって言うかさぁ……」
「良いから早く」
セラヴィーの愚痴を遮って、エクシアは続きを促した。
本当に、エクシアとダブルオーの二人はこういう感じだと、ケルディムはしみじみと思った。そして付け加えると、二人はただ単に自分の世界に生きているだけだろう。
何でこんなに個性豊かにしちゃったんだろうと、今は亡き父を思いながらため息を吐く。もう少しくらい優等生部分を強くしていたらデュナメスの苦労も減ったのではないだろうか。父が亡くなってしまった今、そして父に作られた身としては、たとえ考えてみても詮無きことだとは思うけども。
などと思っている間に、セラヴィーが苦笑を浮かべながら答えた。
視線は刹那の方を向いている。元々は刹那に対しての言葉だったのだ、これは別に不自然でもないし当然の事だろう。
「あのね、刹那、君には『力』が在るね?僕からすれば見るだけで直ぐに分かるような『力』だ。だってその『力』は記憶に、過去に起因している物だからね。過去って一言で言ってもまぁ、色々とあるんだけども…この場合は生まれる前のことかな」
「…まさかとは思うが、輪廻など言い出すんじゃ…」
「あぁ、それはないから大丈夫」
クスクスと笑うセラヴィーに、刹那は首をかしげたようだった。
「ない、のか」
「うん。生まれ変わるのも中々難しい物なのだと思うよ。でね、君の場合はね、魂に記憶が埋め込まれているんだ。生まれてくる前に、第三者の手によってね」
「それはやはり生まれ変わりでは…」
「違うってば。あくまで継承されたのは記憶だけで、魂は全く別物なんだからね」
そして、セラヴィーは刹那の胸の辺りを指さした。
つまりね、と続けながら。
「君の中には、二つの記憶があるんだ。君の記憶と、君以外の記憶。…ね、最近で何か変わったことはない?もしもあったらそれは、埋め込まれた記憶が芽吹こうとしているのかもしれないよ?外部からの干渉がなければ、そんなの無理だとは思うけどね」
「変わったこと…といってもありすぎるぞ?突然に年をくった」
何でもないように告げられた青年の言葉に、ピシリと音を立てて一つの人形が止まる。
セラヴィー?と声を掛けてみても反応が無く、珍しく彼は衝撃を受けているらしい。受けて、それを隠しきれない状態らしかった。
どうしてそこまで狼狽えるのか、ケルディムにはイマイチ分からない。記憶の混在によって刹那に迷惑が掛かるのだとしても、恐らくセラヴィーは気になどしないだろう。
なのに気にするなんて、ちょっと珍しいとは思った。