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 うわ有り得ない。最初に感じたことはそれだった。
 まとわりつくイトが無かったときに一応予備軍的な位置に入れてはいたけれど、まさか本当に記憶を植え付けられたヒトだったとは。

 世の中、素晴らしいほど、皮肉なほどにできすぎた偶然というのもあるのだと、今改めて知ったような気分である。

 セラヴィーには、とある特徴がある。
 その『記憶を司る』という性質があるために、他の人形では到底知り得ない事柄を知っていることがある、という特徴である。おかげでたまにヴァーチェに辞書代わりにされることもあるが、そこは別に構わない。頼られるのは嫌な気はしないし。

 ともかく、その特徴が存在するが故に。
 自分は自分を形成しているのだろう。

「……あのね、僕が欲しいのはその記憶なんだ」
「何故だ?」
「僕が知らないことをその記憶は把握しているはずで、それはもしかしたら僕らの父さんの仇に関する記憶かもしれないから。だから知っておきたいんだよ、弱点があるかもしれないのだからね。少しでも有利になりたいじゃないか」

 訝しげな刹那ににこりと微笑んで答える。事実をそのまま。
 ただし事実は事実のまま、それ以外の事柄まで話す気にはなれない。訊かれもしないのに自分から話す気はないのだ。

 例えば、仇であるリジェネが人間でも異端でも魔族でも月代でも無く、同時に人間で異端で魔族で月代であるという事。仇は人ビトの誕生前から存在する存在である事、人ビトの元となった人々が存在する事。

 それらは全て、リジェネを一目見た瞬間に頭に流れ込んできた知識である。
 だが、その記憶でも肝心の部分には触れないのだ。
 自分たち『人形』全てに関係している、とある事柄。

 世界、に、ついて。

 接触がある事は分かる。その辺りは見えた。けれど、ハッキリとした『世界』像を結べるほどの情報量ではなく、どうやら表面にある記憶ではなく、奥の方に大切にしまい込んでいる記憶なのだと分かった。

 だからだ。
 だから、セラヴィーはその知識を知る事を求める。隠されるという事は多少なりとも仇にはその記憶に対して思うところがある、ということなのだから。
 知っておいても損はない。

「刹那、その記憶を見せて…って無理か」
「恐らく。俺はその記憶とやらを思い出せない」
「ということは、やっぱりまだ解凍中ってワケ、かぁ……」
「悪いな」
「ううん、別に良いよ。だってこればかりは君の意思による物でもないでしょ?」

 どうせそのうち記憶はあふれ出すのだから。
 そう続けようとして、慌てて口を閉ざす。言ったところで問題はないだろうが、言わなくても問題はない。ならば情報は伏せていた方が良いだろう。

「思い出せたら直ぐ言ってよ」
「……分かった。出来るだけその約束は守る」
「ふふっ…出来るだけ、かぁ。ちょっと複雑だね、その言葉」

 守れるのか守られないのか、酷く曖昧な言葉だ。はぐらかす事も出来る、言葉だ。
 相手は刹那だから、多分、あまり心配する事もないとは思うのだけど。
 それでも心配な物は心配なのである。

「そういえば刹那、宿に帰らなくても?」
「……別に良い。どうにかなるだろう」
「ならないって普通」
 

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