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302


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 ドアが開いて、入ってきたのは……ヨハンだった。
 何だ、と安堵してベッドの下から出ようとしたところで、アリオスにグッと肩を掴まれた。これはつまり……出るな、ということか。

 どうして?と聞こうとしたら、口を半身の手にふさがれた。喋りもするな、と言うことらしい。やけに慎重だ、相手はヨハンだというのに。

「……アイツ、ヨハンじゃねぇ気がする」
「…え?」
「気配ってか、俺の感じ方が何か違う」

 小声で言うアリオスに、キュリオスは改めてヨハンの方を見た。
 何も変わったところはない。目の下のほくろの数が減ったわけでもないし、肌の色が突然白くなったわけでもない。普段を語れるほど付き合いは深くないが、先ほど分かれたときと寸分違わぬ見た目である。

 ただ、アリオスが言ったのは見た目ではなく中身の方らしい。気配、というからには目に見える物ではなく、感覚が違うと伝えていたと言うことであり。

 そう言う点について、キュリオスはアリオスの意見に反論する気はなかった。おおよそ、半身の心などといった目に見えない物に関する言葉は間違わない。『心』、それがアリオスの専門分野だから。

 武器の皆には専門分野がある、と思う。セラヴィーは記憶に関して色々出来るし、アリオスは心についてたくさん知っている。ケルディムは気配を読むことに長けていて、ダブルオーは……どうなのだろう。彼女がやる気になることは希だから、あったとしても、あまり彼女の専門分野とやらには出会えそうにない。

 これは残念なことなのだろうか、それとも幸いなことなのだろうか…。
 あるにしろないにしろ、それはハッキリとは分からずにキュリオスは苦笑した。

 と、それはともかくとして。
 専門分野は専門家に任せれば大丈夫。

「……どんな感じに違うの?」
「他人が凄くそっくりになりすましてる感じだな」
「鏡、とか?」
「あぁ、それが一番近いかもな」

 鏡写しの鏡像。そこにあるのは間違いなく自分なのだが、左右対称という点で自分とは違う存在になってしまっているそれ。
 近しいけれど遠い存在。

 良い例が自分たちだろうか。とりあえず容姿はそっくりと言えばそっくりだけれど、ちょっと丸い自分の目と違って、アリオスの目は鋭くて格好良いし。彼を見るたびに羨ましいと思った物だった。今でも思うけど。

「じゃあ、ヨハンさんは?」
「無事じゃねぇ?何かあったら騒がしいだろ」
「……かなぁ」
「おう。それよりどうする?」

 くい、とヨハンの格好をした誰かを指して、アリオスが問う。

「アイツ、何かやっとくべきか?」
「うーん…どうだろ。放っていたら出て行ってくれないかな?」
「無理っぽいぜ。何か探してる」
「…何を探してるの?」
「そこまでは知らねぇよ」
「……だよね」

 けども、確かにキョロキョロとしているし……何かを探してはいる様子だ。
 何を探しているのかは、会話の通り分からなかったけど。

 

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