「オレは嫌だと言ったな?」
「そういや言われた気もするねぇ」
「……それを無理矢理に連れだしたのはお前だったな?」
「あれ、そうだったっけ?」
「とぼけるなッ!」
「はい、ストップストップ」
思わずと言った態で声を上げた同行人を宥めるように答えてから、首だけでぐるりと辺りを見渡す。
そうして見えたたくさんの乗客に、ため息。
「……あんま大声出さない方が良いんじゃない?電車の中なんだし」
「知るか!」
「あぁ、もうこの子は……」
「大人ぶるな!そもそもお前のせいだろうが!」
「しょうがないからそれは認めるけど、けどさ、オレだってこんな状況を予測してたわけじゃないんだから……許してくんない?」
「断る」
バッサリと言葉を切り捨て不機嫌そうに表情をゆがめる彼を見て、バスターはもう一度ため息を吐いた。これは、もしかしたら電車から降りた時が自分の命日かもしれない。ある意味自業自得なのかもしれないが。
しかし、やはりそれはあんまりではないかと思うのだ。悪いのはバクゥにひっつきっぱなしの彼の方だ。たまには彼の愛犬から引き離して適当に遠出させた方が良いのではとか考えたって、絶対におかしくは無い。
……まぁ、ちょっとばかり連れ出す時に強引な手は使ったけれど。
その時に負った頬の引っかき傷を軽く撫でて、ほんの少しだけ反省する。
もっとも、自分は絶対に間違えていないと思ってはいるけれど。
失敗していたとしたら、それは電車の時間帯だけだ。
「それにしても、こんな満員でみんな耐えられるってのが凄いねぇ」
「確かにな……」
「それと、こんな中にも身体を押しこもうとする根性が凄い……っていうか凄かった」
「……そのせいで俺たちはこんな、車体の中央に押し込まれたんだろう」
「そうそう。吊皮にも微妙に届かないし……これで大きな揺れが来たら大変じゃない?」
「あぁ、言えてるな……ところでなんだが」
と、少しだけ真剣そうな声音でそう言って、デュエルが首を傾げた。
「頬の……その傷は何だ?」
「あー……やっぱ気付いてないっていうね……予想してたけど」
「……?」
「ホラ、家出る時に思いきり抵抗されたでしょ。あの時にちょっとさ」
言いながらも、彼がそれに思い至る事は無いだろうと思った。こんな傷など偶然出来た様な物だし、こちらに負わせたダメージとしてデュエルが覚えている事など、せいぜい鳩尾に見事に決まったストレートパンチやくらいの物だろう。
案の定、眉根を寄せて考え込む彼の顔に理解の影は全くない。
「ま、こんなの軽い事故だし、気にする必要は無いと思うけど?」
「……いや、」
軽く言った言葉に彼は首を振って、それから口を開いて……
ガタンッ!
「うわ!?」
「っ!?」
……何事かを言おうとしたのだろうが、突然に襲ってきた大きな揺れに身体を傾かせて、それどころではなくなってしまった。
どうにか自分は耐えたのだが、少しバランスをとる事に失敗した彼の方はそう上手くは行かなかったらしい。傾いた体は傾いたまま、隣に立っていた誰かにぶつかりそうになっている。
何も考える暇は無かった。
とっさに手を伸ばして彼の腕をつかみ、ぐい、と傾きを修整する方向に力を与える。
どうやらそれは上手くいったらしい。結果、自分が傾く事も、彼が再び傾く事も無く、再び二人は満員電車の中の直立する人間の一部になった。
その事に安堵しながら、バスターはデュエルに声をかけた。
「大丈夫?」
「……あぁ」
「そりゃ良かった」
「……おい」
「何?」
「……悪かったな」
顔を背けながらの彼の言葉に、苦笑を浮かべる。
さて、果たしてこの謝罪は頬の引っかき傷についてか今の事についてか。
そう考えて、どっちだって同じかと、最終的にはそう思った。
SEED組も少しずつかけていければいいと思ったので。
っていうか、バスターの口調がわからないとかいうね…。