「ってなわけで、ウイングの尊い犠牲の元、ちゃんと依頼通りに作ってきましたよ」
「……ありがとう」
「いえいえ。平和的で良いんじゃないですか、なんて言っちゃったのオレなわけだし」
まさかあの一言だけで作戦決行が決定してしまうとは思っていなかったとはいえ、やはり現状の原因は自分にあると思うのだ。
だから下準備に関しては手伝おうと決めたわけだし、実際に手伝ったわけだ。
綺麗にラッピングした袋入りの完成品をゼータに渡しながら、デスサイズは首を傾げた。
「でも、何でオレに依頼したんで?」
「メタスに言ったら劇薬を入れかねないと思ったからな……」
「それは……」
何ともあり得そうな言葉に、僅かに表情が引き攣る。
ゼータが彼を嫌っているからか、メタスも彼に敵意を持っているらしいことは、遠目に見ていても分かる。そんな彼女にこんな事を依頼したら、確かにとんでもない事になりそうだ。幼馴染を犯罪者にはしたくないだろうし、ならば、自分に頼んだ事は賢明な判断だったのかもしれない。
自分だったら調子に乗っても激辛突っ込むだけだしなぁ、なんて思いながら、ゼータに渡したのとは別の袋を鞄から取り出す。
それを不思議そうに眺める上級生の口に、デスサイズは袋から取り出した一枚の小さめのクッキーを放りこんだ。
「ちなみに依頼の品はこんな感じの十倍増しの甘さになってます」
「……甘いな」
「そりゃ、依頼が『激甘クッキー作れ』だったんですから」
今ゼータに食べさせたのは、まだ菓子としての機能を所有していると判断される物だ。先ほど渡したのは既に菓子では無く、ある意味兵器だと本気で思う。現に、あの完成品を食べさせたウイングは倒れたわけだし。
倒れる程甘いクッキーって何だろうと思わなくはないが、自分では手を伸ばそうとは思わないから、きっと永遠に分からないままだろう。分からなくて良いけれど。
「んじゃ、そう言う事何でオレはそろそろ行きますね」
「あぁ……もう一度礼を言っておく、ありがとう」
「どうも、お気になさらず」
気にするんならそのクッキーの被害者さんを気にしてやってください。
一瞬、そう言おうかと思ったが、止めた。
生憎と、自分に自殺願望は無い。
きっと、しばらくウイングは甘いもの恐怖症に陥ると思われ。