01．着信履歴
『すみません、質問があるんですけど』
通信端末の画面に映し出されたアレルヤは、ため息を吐いてロックオンを見ていた。
その理由が分かるロックオンは苦笑するしか無く、どうぞ、と身振りで続きを促す。
『何回かけてきてるんですか、あなたは』
「数えてないから分からないんだが」
『あれをわざわざ数えていたら、それはそれで凄いですよ……で』
「ん？」
『どうしたんですか？』
「いやぁ、別にたいしたことじゃないんだが」
では何故？と首をかしげるアレルヤ。
ロックオンはそれを微笑ましく思い、それから口を開いた。
「なんとなく、お前さんの声が聞きたくてな」
『……それだけ？』
「それだけ」
言うと、アレルヤは呆れの表情を浮かべた。
『それだけで……よくもまぁ、あれだけできますね』
「そういう気分だったんだよ。あ、そうそう」
『？』
「明日トレミーに戻るんだが、何か欲しい物あるか？買って来てやるよ」
『欲しい物、ですか……？』
アレルヤはあたりを見渡すそぶりを見せた。足りない物が無いかなど、いろいろと見ているのだろう。
ということは彼は今、自室にいるということか。
『特にはないですけど、本があったら嬉しいです』
「適当に選んでいいのか？」
『はい。ロックオンが買ってきてくれる本って、かなりおもしろいんですよ？』
くすり、とアレルヤは笑った。
『今回も、おもしろいのを期待していますね』
「ご期待に添えるよう、せいぜい頑張るさ……というか、本当に適当でいいのか？」
『ええ。適当でいいです』
「そういうのって、一番大変なんだが……」
『そうなんですか？なら、何か決めないと……』
真剣な顔で悩み始めた彼に苦笑しながら、かまわないとパタパタ手を振る。
「そっちのほうが選びがいがあるから、いいんだよ」
『そう、ですか？』
「そうだ」
『それならいいんですけど……』
まだ何か考えていそうな様子。
……真面目すぎるのも、いいとこっちゃあ、いいとこなんだがなぁ……
時と場合によるものだな、と考えつつちらりと時計に目をやる。
「そろそろ寝るか……」
『あ、もうそんな時間ですか？……本当ですね』
アレルヤも時計を確認したようだ。
『じゃあ、おやすみなさい』
「おう。またな」
そして、通信が切れた。
「……本当、よくやるよ」
端末の画面を眺めながら、アレルヤは呟いた。
いつもなら何らかの反応を返す半身の言葉はない。眠り込んでいるから。
起きていたら、絶対何か言ったはず。アレルヤでさえこれなのだから。
「嬉しくないって言ったら、嘘だけど……やっぱり、これはやりすぎだよね」
画面に映っているのは着信履歴。びっしりと……とまではいかないものの、かなりの数のロックオンの名前が映されている。
いつの間に、こんなにかけたのだろうか。使うこともないだろうと部屋にコレを置いたまま、しばらく休憩室でのんびりとしていた間、としか考えられないのだが……。
「まぁ、その後も部屋に帰らないで晩ご飯とか食べてたけど…」
それでも、ものすごいペースでかけてきている。
これならアレルヤが呆れても仕方がないだろう。
端末を閉じる。
「……今度は、僕からかけようかな」
そうしたら、彼はどんな反応を見せるだろうか。
ちょっとだけそれを楽しみに思い、ではいつ実行しようかと考え始めた。
いや、アレルヤさん、呆れる前にどうしてここまでするんだよって、もっと深く考えましょうよ！？
という突っ込みを私が入れたいです。
あの通信端末、携帯じゃないからなんて呼んだらいいのか分かりません。
