スクアーロからのその言葉を聞いて、ベルフェゴールは持っていたケーキをひとまず皿の上に戻した。こんな話をしながら食べても美味しくないのは間違いない。ちゃんと片付けてから食べる。
ということで、さっさと話を終わらせよう。
「学校？何それ美味しいの？」
「あ゛ー…美味くはねぇだろうな」
「じゃあヤダ。何で俺がいかないとなんないのかが分かんないから面倒」
「ベル以外に適任者がいないんだよ」
「幻術使えばマーモンだって大丈夫だろ」
本当にそうだと思ったから言ってやったら、マーモンはあのねと、ため息を吐きながら口を開いた。
「ずっとそんなくだらないことで幻術を使えって？そこまで高いランクでもないのに誰がそんなことすると思うんだよ」
「わー、守銭奴」
「ありがとう。それ、褒め言葉だよ」
「とにかくなぁ、ベル、もう決定事項だから諦めろ」
「…むー」
決定事項と言われてしまったら仕方がない。最近のザンザスの機嫌は頗る悪いから、普通に刃向かったら普通に消されかねない。まだ死にたくないから任務はちゃんとやっておこう。さぼる事は出来るときにやればいいし。
そう結論づけて、ベルフェゴールはスクアーロの手から任務に関する諸々の記してある紙を奪うように取った。
「んで俺、何したら良いワケ？暗殺だけじゃねーんだろ？」
「今回の標的が麻薬を学校にばらまいてるらしいから、ばらまかれた相手と入手ルートを探れ、だとよ。俺たちヴァリアーが出る理由は、ま、その件を片付けるのが何かの取引の材料になったからだと」
「うわ面倒な理由」
思わず顔を顰める。前髪が長いせいで、あまり他人にはそれが分からなかったかも知れないけれど。もっとも、今傍にいる二人に関してはそれも当てはまることはないだろう。何だかんだで付き合いは長いのだ。
…別に、殺すことは嫌いじゃない。むしろ楽しいと思う。
ただ問題は理由。そんな理由で殺しを楽しめるワケがない。強くて手応えがあって、切り裂くのが楽しそうな相手でもないのだから。
あぁ、凄く面倒な役割。
先ほどマーモンがため息を吐いていたが、むしろ自分の方がため息つきたいんですけど。
などと思いながら紙をボーッと眺めて、むしゃくしゃしたので丸めた。
それで屑籠に投げる。
「ってオイ！？」
「もー全部見たからいいや」
「良いやじゃねぇだろーが……ったく、ちゃんと内容暗記したんだろうなぁ？」
「やったよやった。とりあえず殺せば良いってコトじゃん？」
「分かってないよね、それ」
「…マーモン、お前しばらく任務無かったよなぁ…？」
呆れたようにマーモンが言ったその後、スクアーロがどこか諦めた風に言った。
対して言われた本人は、ちらと彼を見上げた。
「いっとくけど、僕はフォローには行かないよ。君が行けばいいじゃないか」
「俺は明日から長期任務だぁ。報酬は払うからどーにか頼む。取引材料になってんだ、こればかりは失敗させられねぇだろ」
「…今回は事情が事情だから……まぁ、Sランク任務の二個分くらいかな」
二個分、というのは報酬のこと。そしていつもなら三個分とか言ってるのに一個分まけているというのは、彼にしてみれば大した譲歩だろう。
それにしてもマーモンが付いてくることになるなんて。
ハメが外せそうでかなり嬉しいのだけれど。
後始末の諸々は全てマーモンに押しつけようかと画策していると、ふいに頭の上に軽い何かが乗って、その何かが自分の髪を引っ張った。
まぁ、何かという程もなく、それはマーモンなのだが。
「痛っ！？マーモン何すんだよ！」
「ベル、君の考えていることは全てお見通しなんだよ。厄介事はくれぐれも増やさないでくれるかな。割に合わない仕事は嫌だからね」
「何でそんなの王子が聞かないと…痛い痛い痛いっての！髪抜ける！いい加減に力緩めろよマーモンの馬鹿！お前の全財産、つぶれかけた孤児院に寄付してやろーか！？」
「何てこと言うのさベル！」
「そのまんまの意味だっつーの！」
不満共々言い返してやれば、マーモンは静かに宙に浮いた。放たれるのは敵意か。
ベルフェゴールはに、と笑ってナイフを構えた。楽しくない任務の前に、楽しい楽しい殺し合いが出来そうだ。
二人分の敵意の渦巻く部屋で。
「お前ら、部屋だけは壊すなよ」
スクアーロは傍観者の如く呆れた表情を浮かべていた。
そうして学校へ…という。
続きを書くかは考え中です。どうしよう…。
